フランケル新境地で圧勝に見る種牡馬ガリレオの実力

2012年08月29日(水) 12:00

 今さらながらではあるが、種牡馬ガリレオの強い影響力を改めて見せつけられたのが、先週のヨーロッパ競馬だった。

 ハイライトはなんと言っても、22日(水)に英国のヨーク競馬場で行われたG1インターナショナルS(芝10F88y)におけるフランケル(牡4、父ガリレオ)のパフォーマンスだった。

 マイル以下の距離を走って12戦12勝の戦績を残していたフランケルが、初めて10Fを越える距離に挑んだこのレース。同馬の母カインドが5F〜7Fの距離で6勝を挙げたスプリンターであったため、そして何よりフランケル自身が8F以下で爆発的なスピードを見せていたため、距離延長を不安視する声もあった中、エクリプスS(芝10F7f)2着馬ファー(牡4、父ピヴォタル)や、BCターフを含めてG1・4勝のセントニコラスアビー(牡5、父モンジュー)らに7馬身差をつける圧勝。ライバルたちが必死に追う横を馬なりで抜け出したレース振りに、世界中の競馬ファンが度肝を抜かれることになった。

 その前日の21日(火)、仏国のドーヴィルで行われたのが3歳牝馬限定のG2ノネット賞(芝2000m)だった。前走のG3クロー賞(芝1800m)を含めて3戦3勝の成績でここへ臨んだアガ・カーン殿下のリダシーナ(牝3、父モティヴァイター)が1.6倍の大本命に挙げられていたのだが、勝ったのはカリッド・アブドゥーラ殿下が送り出したロマンティカ(牝3、父ガリレオ)だった。

 デビュー5戦目で待望の重賞初制覇を飾り、次走はG1ヴェルメイユ賞に向かうことになった同馬の母は、G1コロネーションS、G1BCフィリー&メアターフ、G1ジャックルマロワ賞と3つのG1を制した名牝バンクスヒルだ。バンクスヒルの兄弟姉妹に、カシーク、シャンゼリゼ、インターコンティネンタル、ヒートヘイズと4頭のG1勝ち馬がいる他、トップサイヤーのダンシリもまたバンクスヒルの兄という、アブドゥーラ殿下のジャドモントファームが誇る名門牝系を背景に持つのがロマンティカで、父がガリレオでなくとも走って当たり前の血統なのだが、牝系の良さをきっちりと伝えることが出来るのもまた、ガリレオの凄さである。

 週末になると、ガリレオの勢いはさらに加速した。

 25日(土)に愛国のカラで行われたG3愛セントレジャートライアルS(芝14F)を、アーサメジャー(牡3、父ガリレオ)が快勝。次走は愛国でなく英国のG1セントレジャー(芝14F132y)に向かい、三冠がかかったキャメロット(牡3、父モンジュー)に挑む公算大と言われている。

 同日、独国のバーデンバーデンで行われたG3スパルカッセンフィナンスグループ賞(芝2000m)を制したのが、ミカイルグリンカ(牡5、父ガリレオ)だ。今年3月、メイダンのスーパーサーズデーで行われたG2ドバイシティオヴゴールド(芝2400m)を制した後、再レースとなったワールドCデーのG3ドバイゴールドC(芝3200m)で大敗した同馬。ここはそれ以来5か月振りの実戦だったが、久々を感じさせない競馬で快勝している。

 さらに同日、英国のウィンザーで行われたG3ウィンターヒルS(芝10F7y)で、重賞初制覇を飾ったのがレイタイム(牝4、父ガリレオ)である。同日・同競馬場の準メインとして行われた、準重賞のオーガストS(芝11F135y)を制したのも、ガリレオ産駒のキャメロンハイランド(牡3、父ガリレオ)だった。

 そして同日、英国のグッドウッドで行われた準重賞マーチS(芝14F)を制したのがクエストフォーピース(牡4、父ガリレオ)で、仏国のクラレフォンテンで行われた準重賞クラレフォンテン大賞(芝2400m)を制したのがアイグマリーン(牝3、父ガリレオ)だった。

 ガリレオ・ウィークを締めくくったのが、26日(日)に愛国のカラで行われた、牝馬によるG3ランウェイズスタッドフィリーズS(芝9F)を制したアップ(牝3、父ガリレオ)だった。2歳秋、デビュー2戦目に初勝利を挙げると、次走いきなり北米遠征を敢行してG1BCジュヴェナイルフィリーズターフ(芝8F)に挑み、4着に健闘。今年5月にはG1仏千ギニー(芝1600m)でビューティーパーラー(牝3、父ディープインパクト)の2着になるなど、随所で高い能力を見せながらも、勝ち星からは1年近く遠ざかっていた同馬だが、ここはまさしく格上の力を見せつけての勝利となった。

 ヨーロッパではこれから、各国の各路線でシーズン末の総決算的位置付けにあるレースが組まれているが、ガリレオ産駒が果たしていくつメジャータイトルを持って行くか、けだし見ものと言えそうである。

 ちなみに、8月18日から21日にかけて仏国のドーヴィルで開催された「アルカナ・オーガスト1歳セール」で、120万ユーロという最高価格で購買されたのは、ガリレオの8歳年下の半弟シーザスターズの産駒だった。

 09年の世界チャンピオン・シーザスターズは、10年に大きな期待とともに種牡馬入りし、初年度産駒は今年1歳を迎えている。

 アルカナセールに上場されていた7頭のシーザスターズ初年度産駒に加え、ノルマンディーの牧場を廻って、もう数頭のシーザスターズ産駒を見たが、それぞれ異なるタイプの個体をした馬たちだった。種牡馬によっては、判で押したように同タイプの子を出す馬もおり、シーザスターズの兄ガリレオもまた、いくつかのパターンに類別出来る個体の産駒を出す種牡馬だが、牧場関係者に話を総合すると、シーザスターズは母方の良さを引き出すタイプの種牡馬のようだ。

 一方で牧場関係者からは、シーザスターズ産駒は総じて気性が素直で扱いやすいという声も聞かれた。メンタルな面では、父が持っていた特性を受け継いでいる仔が多いようである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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