オススメ、「北海道牧場マップ」完成!

2012年10月03日(水) 18:00

かなりの労作「北海道牧場マップ」

かなりの労作「北海道牧場マップ」

 このほど(株)ジェイエスがオールカラー種牡馬情報誌「Futurity」50号創刊記念の特別付録として「北海道牧場マップ」を作成した。北海道の主要な軽種馬生産地である胆振(いぶり)と日高を中心に、各町ごとに個別の牧場名が詳細な地図上に示されている優れものだ。

 個別のデータは2012年8月現在のものだという。日々、変化し続ける生産地にあって、より正確な地図を作るのは、実は思ったよりずっと大変な作業になる。まずはこうした地道な作業に取り組み、一冊にまとめたことに最大限の賛辞を送りたい。

 ただし、この地図が本当に正確なものかどうかとなると、いささか疑問が残る。だからといって、もちろんでたらめではない。95%程度は正確にできている。ここまで到達するだけでも至難の業なのだ。

 では、いったいどこが正確ではないのか。例えばこういうことである。実際には牧場が実在するにもかかわらず、地図上に名前がないケースがある。また逆に、地図には牧場名の記載があるものの、実際にはもうすでに廃業している(と思われる)ケースもある。

 牧場が実在しているのに地図上に記載がない場合は、おそらく調査を進める段階で個別にスタッフが牧場を訪問し、確認して歩いた上でのことなのだろうから、あるいは牧場側から記載を見合わせてほしいと要求されたのかも知れない。

 外から見る限りでは明らかに牧場であっても、実はすでに生産を休止したり、すでに他人に譲渡、賃貸されているケースもあり、その確認作業を行いながら一軒ずつ個別に当たって行くことになる。また、名前は記載されていても、実はすでに生産を止めている牧場もまた少なくない。ただし、依然として牧場主はそこに住み続けており、生産活動は休止していても、代わりに功労馬を飼養管理していたりする場合もあって、実態はなかなか複雑である。

 かつては生産牧場を営んでいたのであろうと思しき厩舎や倉庫、放牧地などが手つかずのまま放置されている元牧場の場合、生産名簿にも名前が見当たらないので、もう廃業してどこかに転居してしまったのかと思えば、実は和牛や花卉(かき)生産に転換しているというケースもある。つまり、同じ生産牧場、元生産牧場とひとくくりにはできないほどに個々の事情が異なるため、ひとたび牧場地図を作製するとなると途方もない苦労が付きまとうのである。

 そして、さまざまな事情があるにせよ、サラブレッドを買い求める馬主や調教師、仲介業者はもちろんのこと、取材に訪れるマスコミ関係者、あるいは競馬ファンに至るまで、まず未知の牧場を訪れる際に最も頼りとするのがこの牧場マップだ。

 日高に生まれ育った私でも、実は今まで一度も訪れたことのない牧場のほうが多く、中には実態がよく分からない牧場もたくさんある。そういう場合は、だいたい目的の牧場の近隣に住む友人知人にあらかじめリサーチして、例えば取材可能な牧場なのか否か、あるいは、牧場主の年齢や性格などもできるだけ事前に情報を得るようにしている。そうでもしなければ、怖くて近づけない牧場が数ある中には確実に存在するからだ。

 ともあれ、長引く不況により、胆振日高の牧場地図は刻々と変わりつつあり、ある日突然、病気や怪我、または経営主の急死などによっていきなり廃業に追い込まれるケースもある。こうした事情を勘案すれば、実は正確無比な地図の作成がどれほど困難な作業かがお分かりいただけよう。

 繰り返すが100%完璧な地図は以上のことからまず不可能と言って差し支えないが、しかし、この牧場マップは、現時点では最も新しく、かなり正確に出来上がっている労作であることは言うまでもない。

「Futurity」は2012年に初産駒の誕生した9頭の種牡馬特集や海外競馬のクラシックレポートなど内容が盛りだくさんで、定価は2000円。決して安くはないが、牧場マップが付録についているとなると話は別だ。ぜひご活用いただきたと思う。

 なお、巻末には各町別に50音順の牧場索引や宿泊施設一覧が、また生産地相互の距離早見表、高速道路通行料一覧、名所や行事などの紹介されており内容豊富である。(株)ジェイエスは新ひだか町静内本町1-2-1。お問い合わせは、tel:
0146-42-25441まで。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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