『現金投票とPATの公平性、一番リアルな戦い所』“外れ馬券は経費か否か”有識者座談会(2)

2013年05月20日(月) 12:00

5/23に判決となる“外れ馬券は経費か否か”裁判の、『競馬有識者緊急座談会』第2回。前回の内容から、今回の裁判で国税が根拠としたのは、「法」ではなく「通達」だったと判明。利益の何倍もの金額を課税しようとするやり方は、さすがに無理があるのではないか…。メンバーが考える最良の決着方法とは。(5/13公開Part.1のつづき)


赤見:須田さんから「誰も得をしないケンカをしている最中」というコメントがありましたが。

須田:どうなんでしょう、大阪国税局の職員は「やってやったぜ」という快感に浸っているんでしょうか? でもね、国税の職員は、訴訟を起こされるのはやっぱりマイナスにもなるじゃないですか。そういう意味ではそんなに得はしていないでしょうし、訴訟の当事者はもちろん損していますし、JRAも競馬のお客さんも損をしていると。馬券の売り上げが減れば、これから国庫も損をします。

 担税力を考えると、実際取れない金に関する教条的な戦いにもなってますよね。またそれが過ぎると民事の最高裁レベルでは、あまりに恣意的な運用は財産権の侵害だという争点まで出てきてもおかしくないと思います。

野元:弁護側としては、その手の主張というのは本当に奥の手という形で最後まで出さないでしょうね。あくまでも算定の合理性で争うと。最近、大企業の海外での所得の扱いなどを巡って、裁判で国税側が結構負けているんです。

須田:それは「取れ、取れ」って発破をかけ過ぎた勢力がいるからですよね。昔だったら、国税が負けるということはなかったですよね。

野元:あまり負けなかったですね。

須田:純益は上がっていて無申告なわけですから、追及されることは仕方ないと思うんです、数字のボリュームを考えたら。

野元:おそらく、起訴したのもボリュームの問題でしょうね。

須田:同じ脱税でも規模によってやはり意味が違いますからね。ただ、今大阪でやろうとしていることは、取る側に有利な解釈をしすぎて、常識に合わなくなっているのは明らかでしょう。実際の儲けの何倍もの課税という。

野元:6倍以上ですからね。やっぱり課税には、担税力という問題がありますから。

須田:この取り方はもう、「税金ってこういうものなんですよ」という、税法を学ぶ学生さんが勉強するような基本理念から外れちゃっていると思うんですよね。それを刑事でも民事でも裁判官が「さすがにこのやり方は外れていますよ」と指摘してくれれば、競馬にとってはありがたいと思います。ただ「無申告ではあるので、お金は少しは払いなさい」と。

斎藤:そこが、この件に関して須田さんが考える落とし所ということですね。

須田:競馬のお客さんが何を一番嫌だって言っているかというと、馬券で本当に儲かっちゃったら、例えば通年でプラスだったらその年は税金を取られても仕方ないにしても、普通に馬券を反復的に買っているだけで脱税しているのと同じことになるというのが、非常に釈然としないというところで。ここがやっぱり争点だと思うんですよね。

赤見:特に今のファンの方って、回収率を重視して、1つのレースじゃなくて全体で見ているじゃないですか。そう考えると、この方はまさに回収率を重視して自作のソフトを作っていたわけだから、それでレースの当たった買い目だけ課税されちゃうというのは。

須田:われわれのメインテーマとしてはやっぱり、何を費用とするかというところだと思うんですよね。通達にもあるので、競馬の払戻金は一時所得ですと。ただ、その通達の出た1970年というのは、まだマルチユニット券が存在しない時代ですからね。1枚の馬券に1種類の買い目でかつ現金投票のみという時代に国税の側からしてみたら、全部を費用と認めたら、当たった瞬間に外れ馬券をかき集めてくれば儲かっていないことになるという。

野元:そうです。現実にこの頃の国税庁長官が、国会でそういう答弁をしているんですよ。

斎藤:現金で買うことにしたら、それはもう計算ができないわけですよね。

須田:100円券1000円券や、シングルユニット(1枚の馬券で同一買い目を一定金額まで買える)の時代には、事実上捕捉できないということも含めて、その時代なりの事情があった。その後にマルチユニット券(1枚の馬券に複数の組番を盛り込める)が登場して、まして今はPATの時代になって、にも関わらず昔の常識を押し通そうということになっているわけです。・・・

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東奈緒美・赤見千尋

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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