節目のレースのまた節目

2013年05月25日(土) 12:00

 いわゆる「馬券裁判」の判決が、私たち競馬ファンにとって最良ではなかったにせよ、

――もうアホらしくって馬券なんて買ってらんねえよ。

 というものにはならず、ホッとした。

 おかげで、余計なことを考えずに、今週末の日本ダービーを楽しめそうだ。

 さまざまな媒体で紹介されているように、今年のダービーは、第80回という節目の開催となる。

 第1回日本ダービーが行われた1932(昭和7)年は、競馬法が施行され、馬券の発売が正式に認められるようになってから、ちょうど10年目だった。15年ほどの長きに及んだ、苦しい馬券禁止時代を生き抜いた日本のホースマンにとって、「競馬の祭典」日本ダービーは、スタートしたときから「節目のレース」だったのである。

 ファンにとっても関係者にとっても、ダービーというのは、世代の頂点を決めること以上の意味を持つ、特別なレースになっている。どうしてそんなに夢中になるのかと問われたら、「ダービーだから」としか答えようがないのが、ダービーのダービーたる所以でもある。

 そんな「節目のレース」の節目――10回ごとのメモリアルダービーはどんなレースだったのか。こういう機会でなければ振り返ることもないので、それぞれを端的にまとめてみたい。

■第10回 1941(昭和16)年5月18日
 太平洋戦争が開戦したこの年のダービーを制したのはセントライトだった。「初代三冠馬が制したダービー」という、節目にふさわしい一戦であった。

■第20回 1953(昭和28)年5月24日
 この年の出走馬は最多の33頭。現在より15頭も多い「馬だらけのダービー」を勝ったのは関西馬のボストニアン。皐月賞優勝、菊花賞2着という「準三冠馬」だった。

■第30回 1963(昭和38)年5月27日
 この年のクラシックは、尾形藤吉厩舎のメイズイとグレートヨルカによる「MG対決」に沸いた。ダービーを勝ったのは快速馬メイズイ。枠連170円の払戻しは史上最低額で「銀行ダービー」と呼ばれた。第10回、20回同様、皐月賞との二冠制覇であった。

■第40回 1973(昭和48)年5月27日
 1番人気に支持されたのは、地方の大井から中央入りして連勝街道を突き進み、皐月賞を制したハイセイコー。同馬はしかし、ダービーではタケホープの3着に終わる。「ハイセイコーが敗れたダービー」として、今も語り継がれている。

■第50回 1983(昭和58)年5月29日
 勝ったのはミスターシービー。史上初の親子三代ダービーオーナー(千明賢治、康、大作)と親子二代ダービートレーナー(松山吉三郎、康久)が誕生した。同馬は史上3頭目の三冠馬となった。

■第60回 1993(平成5)年5月30日
 柴田政人・ウイニングチケットが、武豊・ナリタタイシン、岡部幸雄・ビワハヤヒデとの三強対決を制した。勝利騎手最多の19度目の参戦で栄冠を手にした柴田政人は「世界のホースマンに、今年のダービーを獲った柴田です、と報告したいですね」と語った。

■第70回 2003(平成15)年6月1日
 ミルコ・デムーロがネオユニヴァースを勝利に導き、外国人騎手初のダービージョッキーとなる。この馬も皐月賞とダービーを制した二冠馬だった。仔と孫がダービーの掲示板を独占したサンデーサイレンスは、その前年、世を去っていた。

 特別なレースであるダービーのなかでも節目のダービーは、二冠馬や三冠馬が出現しやすく、のちの時代に強いインパクトを残したレースが多い。

 第80回は、どんなレースになるのだろう。

 二冠馬誕生となると、ロゴタイプか。いや、あとで振り返ったら、キズナが日本ダービーと凱旋門賞の「日仏二冠」を制した、なんていうことになるのかもしれない。

 そういえば、ラムタラが活躍したころ、エプソムダービー、キングジョージVI&クイーンエリザベスステークス、凱旋門賞は「ヨーロッパ三冠」と呼ばれていた。

 キングジョージには、85年シリウスシンボリ(8着)、2000年エアシャカール(5着)、12年ディープブリランテ(8着)と、3頭の日本のクラシックホースが3歳時に参戦している。凱旋門賞には10年、ヴィクワールピサが日本の3歳馬として初めて出走する(7着)など、ヨーロッパ三冠のうち二冠は、日本の3歳馬に縁がなくもない。

 日本ダービー、キングジョージ、凱旋門賞の「日英仏三冠」のすべてを勝つ馬が現れる日がいつか来るのだろうか。

「日英仏三冠」と命名するなら、出走条件をほかのふたつと揃え、「ジャパンカップ、キングジョージ、凱旋門賞」にすべきなのかもしれないが、それはそこにチャレンジする馬が出てくるたびに合わせていけばいい。

 と、勝手なことを言いつづけられるような結果が出ることを祈りながら、5月26日、東京競馬場を訪ねたい。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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