ダービーの余韻

2013年06月08日(土) 12:00

 日本ダービーが行われた5月26日、最終12レースの目黒記念が終わったあとのことだった。武豊騎手に「おめでとう」を言うため、検量室前で待っていると、目黒記念に管理馬のスマートロビン(14着)を出走させていた松田国英調教師が現れた。

 松田師は、2002年にタニノギムレット、04年にキングカメハメハでダービーを勝った「ダービー2勝トレーナー」である。

「ダービー3勝目、どうですか」

 私が訊くと、師は笑みを浮かべた。

「こうやって14万人近いお客さんが入ったなかで盛り上がっているのを見ると、また勝ちたくなりますね」

「ぜひ狙ってください」

「そうですね。2年前のダービーでオルフェーヴルの3着だったベルシャザールが、京都のナリタブライアンカップで3着と、久しぶりにいい競馬をしてくれたんですよ。ダービーデーにこういうことがあると、やっぱり、いろいろ思い出しますね」

 調教師のダービー最多勝記録は、「大尾形」と呼ばれた尾形藤吉元調教師(故人)の8勝。現役調教師の最多勝は、松田師と松山康久調教師(1983年ミスターシービー、89年ウィナーズサークル)の2勝である。松山師は来年2月に定年を迎えるので、次にダービー3勝を狙える現役調教師は松田師しかいない。

 ダービーを3勝した元調教師は3人いて、その3人が尾形元調教師に次ぐ2位タイになっている。そこに松田師が名を連ねることができるか、注目したい。

 ダービーから2週間近く経つのに、いろいろなシーンや感情が、それこそ昨日のことのように蘇ってくる。キズナがラスト200メートル地点からグーンと伸びたときの興奮も、武騎手やノースヒルズの前田幸治代表の嬉しそうな様子も、ここに記した松田師とのやり取りも、そして、キズナの「がんばれ馬券」を買うつもりだった私が、間違って「11レース」にマークして、ワカタカカップのバンブーリバプール(13着)の単複を買ってしまったときの気持ちも。

 久しぶりに「競馬の祭典」らしいダービーだったような気がする。

 翌週、私にとってはダービーとはまた別の意味でドキドキするGIがあった。

 贔屓のスマイルジャックが、レース史上初の5年連続出走をやってのけた安田記念である。

 初めてブリンカーをつけての出走となったので、男前の顔のポイントとなっている流星が隠れてしまったが、前走時から4kg減った488kgという数字が示していたように、体はできていた。

 結果は15着。以前のようにスタート直後から鞍上が抑え切れないような推進力を見せることはなく、後方のままゴールしてしまったが、自身1分32秒5で走り切り、上がり3ハロンを33秒5でまとめている。

スマイルジャック

安田記念のレース後、担当の梅澤聡調教助手に曳かれてクールダウンするスマイルジャック

 うん、頑張った。何より、無事に帰ってきてくれてよかった。

 これでスマイルの安田記念通算成績は、9、3、3、8、15着となった。

 数日前、グリーンチャンネルの「教えて!Gうーまん〜日本ダービーを学ぶ〜」の「ダービー2着馬の行方」を見ていたら、スマイルが女性キャスターにじゃれついている映像が流れていた。無事是名馬。元気是スマイル、である。

 GI連続出走記録というと、今年、トウカイトリックが、天皇賞・春の連続出走記録を8に伸ばした。スマイルより3歳上の11歳。ディープインパクトと同い年で、ディープとオルフェーヴルという2頭の三冠馬と対戦経験がある唯一の馬だ。ミスターシービーとシンボリルドルフは、それぞれ1983、84年に三冠馬になったので、両馬と走ったことのある馬がいて当然だが、ディープが三冠馬になったのは2005年、オルフェは11年と、6年のブランクがある。

 スマイルも、ウオッカやカンパニーと走った経験を持ちながら、ロードカナロアやグランプリボス、カレンブラックヒルといった若い世代ともやり合っているので、「○○と××の両方と対戦した唯一の馬」という組み合わせはいくつもあるはずだ。

「いやあ、カンパニーさんの末脚には粘りがあってな」とか、スマイルが話してくれたらさぞ面白いだろう。

 6日に宝塚記念ファン投票の最終結果発表があり、1位はオルフェの7万519票、2位はゴールドシップの5万7539票、3位はジェンティルドンナの5万3738票と「OGG三強」が占めて、スマイルは89位で1261票だった。

 この1261票の大半は、「宝塚記念に出てほしい」というより「スマイル好きだよ!」という気持ちのほうが強いファンによるもののような気がする。トウカイトリックは5419票で33位か。さすが、という感じがする。

 今も胸に残るダービーの余韻をどんなふうに締めくくってくれるか。「夏のグランプリ」を存分に楽しみたい。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

新着コラム

コラムを探す