“キヨシ”を中心に展開する欧州2歳牝馬戦線

2013年07月31日(水) 12:00

 先週お届けした牡馬編に引き続き、今週は2014年5月4日にニューマーケットで行われる牝馬3冠初戦のG1・1000ギニー(芝8F)へ向けたアンティポスト(前売り)で上位人気に推されている、2歳牝馬世代の有力馬を御紹介しよう。

 大手ブックメーカー各社が7〜8倍のオッズを掲げて横並びで1番人気に推しているのが、チャールズ・ヒルズ厩舎のキヨシ(牝2、父ドゥバウィー)だ。馬主は、競馬をこよなく愛するカタールの王族たちが2011年に設立したカタール・レーシング社である。組織のメンバーには、先日のセレクトセールに来日され5頭の日本産馬を購入されたシェイク・ファハドも含まれているから、キヨシという和風の馬名は親日家のファハド殿下のアイディアかもしれない。そうであるならば、牝馬に男性名をつけるはずがなく、Kiyoshiは人名ではないかもしれないとも思う。

 昨年秋のタタソールズ・オクトーバーセール・ブック2に上場され、セレクトセールでもシェイク・ファハドの代理人を務めたデヴィッド・レッドヴァース氏に8万ギニーで購買された同馬。今年4月18日にニューマーケットで行われたメイドン(芝5F)でデビューし、接戦となったゴール前で勝ち馬から首差+首差+短頭差の4着に敗退。しかし、5週間のインターバルを置き、2戦目となった5月23日にグッドウッドで行われたメイドン(芝6F)では、単勝1.73倍という圧倒的1番人気に応え、好位から抜けだす安定したレース振りで1.1/2馬身差の快勝。初白星を飾っている。

 続いてキヨシは、ロイヤルアスコット4日目の6月21日に組まれたG3オルバニーS(芝6F)に出走。前半の位置取りは19頭立ての最後方だったが、残り2F付近からスタンド寄りを通って進出を開始すると、素晴らしい瞬発力を発揮して瞬く間に先頭へ。ところがその後、若さが出たのか急激に右にヨレ始め、最後は内埒沿いギリギリを通ってのゴールとなった。そんな、やんちゃな面を見せながら、後続に3.1/4馬身差を付けた競馬は、この馬の高い潜在能力を示すもので、一気にクラシック戦線の最前線に躍り出ることになった。

 父ドゥバウィーは今シーズンも、欧州10F路線でG1・3連勝中のアルカジーム、G1マクトゥームチャレンジラウンド3(AW2000m)勝ち馬ハンターズライト、香港のG1チェアマンズスプリント(芝1200m)やシンガポールのG1インターナショナルスプリント(芝1200m)を制したラッキーナイン、南アフリカのG1サウスアフリカンナースリー(芝1160m)を制したウィローマジックなど、世界各地で産駒が大活躍。トップサイヤーとしての地位を不動のものにしている種牡馬である。

 母モッカは現役時代、8F戦と10F戦で勝ち星を挙げている他、12F戦でも2着となっている。一方で牝系は、G1ナンソープS(芝5F)勝ち馬ヤマラクや、G2だった頃のキングズスタンドS(芝5F)勝ち馬ドミニカらが出ているファミリーで、スピード色が濃い。

 キヨシも将来はスプリンターとして大成する可能性はあるが、総合的に見れば、マイルは守備範囲にある血統と言えよう。

 各社17倍前後のオッズでキヨシに次ぐ2番手評価となっているのが、ジョイユース(牝2)とサンディーヴァの(牝2)の2頭だ。

 レディー・セシル調教師が管理するジョイユースは、カリッド・アブドゥーラ殿下のジャドモンドファームスによる自家生産馬。そして血統は、父オアシスドリーム・母カインドと聞けば、海外競馬ファンならばすぐにその素性にピンとくるはずだ。ジョイユースは、14戦14勝の成績を残して昨年一杯で現役を退いたフランケルの、3歳年下の半妹なのである。

 5月28日にリングフィールドで行われたメイドン(芝6F)でデビューしたジョイユース。好位から残り1Fで抜け出すと、そこからライバルを3.1/4馬身突き離す競馬でデビュー勝ち。この時点で早くも、クラシック候補と騒がれることになった。

 続いてジョイユースは、ロイヤルアスコット4日目の6月21日に組まれたG3オルバニーSに駒を進めたため、ここで前出のキヨシと顔を合わせることになった。前半は、スタンド寄りを通りつつ鞍上T・クイーリーが手綱を抑え、キヨシ同様に馬群後方からの競馬となったジョイユース。残り3Fを切った辺りで鞍上が追い出しにかかった際の反応は、それほど芳しいものではなかったが、じわじわと伸びて最後は勝ったキヨシから3.1/4馬身差+首差の3着まで追い込んでいる。

 父オアシスドリームは、自身はチャンピオンスプリンターだったが、種牡馬としては様々な距離区分でA級馬を出している。

 母カインドは現役時代、5F〜7Fで6勝を挙げた馬だったから、血統構成で言えばジョイユースは明らかにスタミナよりはスピードに偏った背景を持っている。だが、エンジンがかかるのに時間を要したG3オルバニーSにおけるレース振りを鑑みると、ジョイユース自身はマイルで止まる馬ではなさそうだ。

 キヨシが勝ちジョイユースが3着となったG3オルバニーSで、2着に入っていたのが、ブックメーカー各社がジョイユースと横並びで2番人気に推しているサンディーヴァ(牝2、父フットステップスインザサンド)である。

 ドンカスター1歳セールにて、ミドルハムパークレーシングに1万8000ポンドで購買され、リチャード・ファーヘイ厩舎所属となったサンディーヴァ。初出走となったのが、5月10日にノッティンガムで行われたメイドン(芝5F13y)で、ここを6馬身差で制してデビュー勝ち。続いて6月3日にナースで行われたLRフィリーズスプリントS(芝6F)に駒を進め、ここも2馬身差で制して2連勝を飾った。

 この段階で、この馬の素質に目を付けたカタールの王族シェイク・ジョアン・アル・ターニが獲得に成功。1番人気に推されたG3オルバニーSに、サンディーヴァはシェイク・ジョアンの服色を背に出走することになった。

 前半はスタンド寄りの中団を進んだサンディーヴァ。残り500m付近から追われた同馬は、末脚に前2走で見せたような切れがなく、キヨシには完敗したものの、ジョイユースの追撃を首差退けて2着を確保している。

 父フットステップスインザサンドはG1・2000ギニー(芝8F)勝ち馬で、父のこれまでの代表産駒チャチャメイディーもマイルG1メイトロンS(芝8F)の勝ち馬。一方、3代母がG1英オークス(芝12F10y)入着馬で、近親にはG1英ダービー(芝12F10y)勝ち馬サーパーシーがいるから、牝系はスタミナ色が強い。陣営は、次走は7F戦を試したいとしており、そこでのレース振り如何で、その後の路線が決まってきそうである。

 ラドブロークスが17倍のオッズでジョイユースやサンディーヴァと横並びで2番手評価、ウィリアムヒルは21倍で4番手評価としているのが、クライヴ・ブリテン厩舎のリジーナ(牝2、父イフラージ)だ。

 キヨシと同じく、昨年秋のタタソールズ・オクトーバーセール・ブック2に上場され、5万ギニーで購買されたリジーナ。5月10日に、デビュー2戦目となったアスコットのメイドン(芝5F)で初勝利を挙げると、5月30日にサンダウンで行われたLR英ナショナルS(芝5F6y)を3馬身差で制して2連勝。更にロイヤルアスコット2日目の6月19日に行われたG2クイーンメアリーS(芝5F)も2馬身差で制し、3連勝で重賞初制覇を果たしている。

 その後、7月12日にニューマーケットのジュライコースで行われたG2ダッチェスオヴケンブリッジS(芝6F,昨年までのチェリーヒントンSから改名)に駒を進めたリジーナは、G2勝ち馬に課せられる3ポンドの負担重量増が堪えたか、伏兵ラッキークリステイル(牝2、父ラッキーストーリー)に足元をすくわれ2着となり、デビュー戦以来の敗北を喫している。

 父イスラージは、2歳戦における勝ち上がり率が非常に高いことで定評の種牡馬。一方、リジーナの牝系は、11ものG1を制した牝馬チャンピオンのセリーナズソングらが出ている、北米の血統だ。成長力も距離への融通性も、おおいにあるとは言い難い血脈を背景に持つが、G2ダッチェスオヴケンブリッジSの敗戦のみで見限るわけにはいかない馬というのが、リジーナに対する現段階での一般的な見方である。

 当面は、キヨシを中心に展開する1000ギニー戦線となりそうだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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