体験入学

2013年08月07日(水) 18:00

 BTCの育成調教技術者養成研修は現在31期生21名が訓練中だが、早くも来春入講する32期生の募集が始まっている。

 その32期生受験者を対象に、7月30日には今年度第一回目の体験入学会が実施された。

 参加者は全員が本州から参加した11名。中学生から大学生まで、いずれも馬の仕事に興味を持つ若者たちばかりである。

研修所内でガイダンスを受けている様子

研修所内でガイダンスを受けている様子

31期生たちの訓練風景を見学

31期生たちの訓練風景を見学

 前日入りし、寮に宿泊した彼らは翌朝まず研修所内でガイダンスを受けた。この養成研修の概要や業界の事情などについて教育係長の斉藤昭浩氏より詳しい説明を聞いた後、施設見学の時間となった。

 午前中は研修施設や今春入講している31期生たちの訓練風景を見学し、その後はBTCを巡回して主な調教施設を見て回る。

 31期生は今のところ1人も欠けることなく全員揃って日々訓練を受けている。春に入講して以来3か月余が経過し、800m馬場にて2頭併走による駈歩まで訓練が進んでいる。この日は1人が体調不良で療養中とのことで残る20名が騎乗訓練を披露した。

 わずか3か月ながら、駈歩までこなす彼らを見て体験入学に参加した若者たちは一様に驚いた様子だ。短期間でここまで乗れるようになるのか、と羨望の眼差しを向けるのである。

 ここがBTCにとっては大きな“売り”になっており、「短期間で一通りの騎乗技術を習得させる」ことを最も重要視するこの研修ならではの特色だ。

奇麗に刈り込まれた緑一色の2400mグラス馬場

奇麗に刈り込まれた緑一色の2400mグラス馬場

 先輩たちの訓練風景を見学した後は、BTCの敷地全体を眼下に見下ろせる2400mグラス馬場に行き、参加者をそこで車から下ろして奇麗に刈り込まれた緑一色のロケーションを見てもらう。いかにも広々としており、気持ちが良い。また夏は本州と比較すると、いくら暑いとはいっても比較にならないほど過ごしやすい気候だから、ここでさらに好印象を与えられる。

 昼食の後、今度は実際に乗馬体験を行う。また、乗馬シミュレーターにも乗せられる。実際に研修の雰囲気を少しでも味わってもらうために、毎回こうしてメニューが練られている。

 体験入学日の夕刻は、バーベキューで締めくくられる。北海道ではジンギスカンが主役で、31期生たちも加わり、11名の参加者を囲んでにぎやかに談笑する。

 いくら詳しく説明を受けても、実際に先輩たちから生の話を聞くのが最も説得力がある。多くの参加者が

「ぜひここを受験して来春の入講を目指したい」と語っていた。

 この後、体験入学会は8月下旬と9月上旬に、それぞれ開催される予定になっている。

馬の仕事に興味を持つ若者11名の記念撮影

馬の仕事に興味を持つ若者11名の記念撮影

 これまでのデータによれば、体験入学参加者の受験率はかなり高いという。インターネットなどでこの養成研修の存在を知り、まずは1年間ここで訓練を受けてから牧場への就職を考えたいという若者が多く、夏休みなどを利用して体験入学に参加するのが定番コースのようなのだ。

 去る7月27日と28日の両日には東京競馬場にて「BOKUJOB」が開催され、多くの若者が訪れたという。BTCでもブースを出し、前年を上回る盛況ぶりだったらしい。

 競馬ブームが去ったとはいえ、依然として馬の業界を目指す若者が一定数いること自体は心強いのだが、その半面、生産地の育成牧場では相変わらず騎乗技術者不足が深刻で、主として東南アジアからの“出稼ぎ騎乗者”で補っているのが実態である。

 人材不足の現状にあって、こういう養成機関の存在意義はひじょうに高いのだが、とても不足分を補てんするところまではいっていない。日本全体では生産頭数といい競馬場数といい、業界規模が少しずつ縮小傾向にあるはずなのに、相変わらず騎乗者が足りないとはいったいどこに原因があるのか。おそらくは途中で廃業、転職してしまう例が少なくないからである。

 因みに今春、ここを修了した30期生18名は、全員がそれぞれ民間の育成牧場に就職したが、残念なことにわずか1カ月ほどの間に2名が退職している。正確に言うと、うち1名は“家庭の事情”で一度決まっていた就職を取りやめ実家に帰ってしまっている。

 こういうあたりに人材養成の難しさが如実に表れていると言わざるを得ない。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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