ヨーロッパで今、最もホットな種牡馬

2013年08月21日(水) 12:00

 ヨーロッパにおける主要なイヤリングマーケットでは最も開催時期の早い「アルカナ・オーガストセール」が、8月17日から19日にかけてフランスのドーヴィルで行われたが、セレクトセッションにあたるパート1(17日と18日)の総売り上げ25、973,000ユーロ(約34億1880万円)は前年比で33.8%アップ、平均価格も前年比34.9%アップの212,893ユーロ(約2800万円)という、主催者の希望的観測をも上回る大盛況に終わった。

 2日間にわたったセレクトセッションを通じて再認識したのが、ヨーロッパで今、最もホットな種牡馬はドゥバウィー(その父ドバイミレニアム)であるという事実だ。

 パート1に上場されたドゥバウィー産駒は9頭いたが、これらは総額4,695,000ユーロで完売し、平均価格521,667ユーロ(約6867万円)という、絶好調と言っても過言ではない売れ行きを見せたのである。欧州の押しも押されぬスーパーサイヤー・ガリレオの産駒が、12頭上場されたうち2頭が主取りで、売却された10頭の平均価格が461,000ユーロ(約6068万円)だったことと比較すれば、ドゥバウィー産駒のマーケットにおける評価がいかに高かったかがおわかりいただけよう。

 150万ユーロ(約1億9744万円)という市場最高価格で購買された上場番号163番も、父ドゥバウィー、母ヒットザスカイという血統の牝馬だった。G2ダニエルヴィルデンシュタイン賞を制している他、G1香港マイル2着の実績を残しているロイヤルベンチ(父ウィッパー)や、G3オーモンドSを制している他、G1愛ダービー3着の実績を残しているメンフィステネシーらが兄に居て、祖母セルリアンスカイがG1サンタラリ賞勝ち馬という牝系を背景に持つ同馬。世界各国から集ったトップバイヤーたちによる激しいビッドの応酬になった末、最後はカタールの王族シェイク・ジョアンとアイルランドから来た代理人ジェームス・ハロン氏の一騎打ちとなり、最後はハロン氏が150万ユーロで獲得に成功した。ハロン氏はクライアントの名を公表しなかったが、ごく最近競馬の世界に参入してきた新規の馬主さんとのことだ。

 パート1では100万ユーロで購買された馬が3頭いて、この3頭が横並びで市場2番目の高値となったが、そのうちの1頭も上場番号14番の父ドゥバウィーの牡馬だった。

 ダーレーの生産馬ドゥバウィーは、2002年生まれで現在11歳。わずか1年供用されただけで早世したドバイミレニアムが遺した、貴重な後継種牡馬の1頭である。

 ゴドルフィンの所有馬として現役生活を送り、2歳6月から3歳9月まで8戦して5勝。2歳秋のG1ナショナルS(芝7F)、3歳春のG1愛2000ギニー(芝8F),3歳夏のG1ジャックルマロワ賞(芝1600m)と、3つのG1を制している。

 3歳一杯で現役を退いたドゥバウィーは、2006年に英国ニューマーケットのダルハムホールスタッドで種牡馬入りし、初年度の種付け料は2万5000ポンドだった。更にその年の秋にはオーストラリアへシャトルされ、南北両半球における供用は2009年まで4シーズンにわたって続くことになった。

 北半球における初年度産駒のデビューは2009年で、2歳戦からいきなり活躍馬続出というわけにはいかなかったが、この世代が3歳春を迎えると、まずは産駒のマクフィーがG1英2000ギニー(芝8F)を制覇。そのマクフィーが夏にはG1ジャックルマロワ賞(芝1600m)を制すると、秋にはポエツヴォイスがG1クイーンエリザベス2世S(芝8F)に優勝。この段階でまず、卓越したマイラーを輩出する種牡馬という評価を確立した。

 そして、ポエツヴォイスによるG1クイーンエリザベス2世S制覇の直後、ドゥバウィーの南半球における初年度産駒の1頭シークレットアドマイヤラーが、G1フライトS(芝1600m)を制覇。ヨーロッパとは形態の異なるオーストラリアの競馬にも対応する産駒が出現したことで、ドバウィーの評価は更に高まることになった。

 その後、2007年に産まれたドバウィーの初年度産駒からは、2012年のG1ドバイWC(AW2000m)を制したモンテロッソ、北米にわたりG1ゲイムリーH(芝9F)やG1イエローリボンS(芝10F)を制したドゥバウィーハイツ、豪州で生まれ南アフリカでG1勝ち馬となったシークレットアーチャーらが出現。更に日本の皆様にもお馴染みのところでは、11年のG1香港スプリント(芝1200m)や13年のG1シンガポールインターナショナルスプリント(芝1200m)を制した他、阪神のG2セントウルSで2着となった香港調教馬ラッキーナインもまた、2007年に産まれたドゥバウィーの初年度産駒の1頭なのだ。ドゥバウィーは世界の津々浦々で、縦横無尽に一流馬を輩出しはじめたのである。

 そして、2008年に産まれた2年目の産駒から、まずはG1独ダービー馬(芝2400m)ウォルドパークが出現。遂にチャンピオンディスタンスの12F路線でも大物を輩出することになった。

 更に2年目の産駒から、昨秋のG1ローマ賞(芝2000m)や今春のG1マクトゥームチャレンジラウンド3(AW2000m)を制したハンターズライトが登場。そして、「ドゥバウィー・ブーム」到来を決定付けることになったのが、今季の欧州10F路線を席巻しているアルカジームの出現だった。

 今季2戦目となったカラのG1タタソールズGC(芝10F100y)でG1初制覇を果すと、ロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F),サンダウンのG1エクリプスS(芝10F7y)をいずれも危なげのない競馬っぷりで快勝したアルカジームは、10月6日にロンシャンで行わるG1凱旋門賞(芝2400m)の有力候補となっている(成績はすべて8月20日現在)。

 ドゥバウィー自身は実は、それほど見映えの良い馬ではないのだが、誰もがひと目で魅せられる惚れ惚れするような好馬体を持つのがアルカジームだ。この馬の登場によって、ドゥバウィーは完全に欧州における最新のファッションとなった。同馬の種付け料は2012年から7万5000ポンド(約1170万円)に上がっているが、2014年は更に高額な価格が設定されることになりそうだ。

 前述したように、馬場の固い豪州をはじめ、世界の様々な地域で活躍馬を出しているドゥバウィーである。日本の競馬への適性が高い産駒も必ずやいるはずで、ごく近い将来我が国でもA級馬を出す可能性がおおいにある種牡馬と言えそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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