札幌にて

2013年08月24日(土) 12:00

 また札幌の生家に来ている。

 父の介護認定調査に立ち会ったり、母の特定疾患医療受給者証の更新手続きをするのが主な目的で、合間に母の入院先に見舞いに行ったり、父を外食に連れて行ったりし、その合間に原稿を書いている。

 さらに合間を見て、22日、木曜日の夜、AIR-G'(FM北海道) の「GTR」という番組の競馬コーナー「ダービー・リュタリオン」にゲスト出演してきた。パーソナリティは札幌で生まれ育ったDJ龍太さん。去年も介護帰省中、彼の番組にゲストとして出演させてもらった。会うのは1年ぶりぐらいなのだが、彼は小桧山悟調教師と古い友人で、去年の秋、師に連れられて北柏の寿司屋に行ったとき、師の携帯電話で話していたので、そんなに久しぶりという感じはしなかった。

 龍太さんの競馬好きもかなりのものだが、同じぐらいかそれ以上に競馬への情熱を持っているのが、FM北海道アナウンサーの高山秀毅さんだ。高山さんはプロデューサーでもあるので、龍太さんを起用しての競馬枠をこうして確保したり、自身がパーソナリティをつとめる番組でも競馬に対する思い入れを語ったり、馬券予想を展開するなどしている。

 まず依頼ありきで、「予算を出すので競馬番組をつくってください」と言われたスタッフが制作したものと、龍太さんや高山さんのように、競馬好きで仕方がない人たちから自然発生的に湧き出てきたものとでは、まるで「熱さ」が違う。こちらも乗せられてつい力が入ってしまい、喉が痛くなるまでしゃべり倒してしまった。

 私の出番から2時間後の午後11時からは、グリーンチャンネルで「寺山修司没後30年記念番組 競馬場で会おう」がオンエアされた。私はそれをスマホのグリーンチャンネルモバイルで見た。MA(ナレーション録りなど)に立ち会えなかったので、通して見たのは初めてだったのだが、奥田瑛二さんによる「さらばハイセイコー」の朗読はさすがに味があった。

 龍太さんもそうだったように、ものすごい競馬ファンでも30代半ばかそれより若い世代では、寺山を知らない人が多い。そうした人たちにも、楽しみながら寺山の功績を理解してもらえる番組になったと思う。

 気になった点はひとつだけ。それは私以外の人にとってはどうでもいいことで、最初のロケから最後のロケまでの間に相馬野馬追取材に行ってエラく日焼けしたので、私の顔の色がそのときによって違うことだ。

 さて――。
 今、「週刊ギャロップ」で競馬歴史小説「虹の断片」を連載しているので、ゴソッと資料を持ってきている。今回はそれに加え、寺山特番のナレーション原稿やテロップのチェックをするため、寺山の著書や雑誌記事などもスーツケースに詰め込んできた。

 その一部を持ってFM北海道に行き、スタジオでひろげながら龍太さんとあれこれしゃべった。
 コーナーの締めくくりは、25日のキーンランドカップの予想だった。私は、ここが札幌、函館の洋芝での競馬が連続10戦目、しかも前走まで4連勝というストレイトガールを本命にした。

 トウケイヘイローが圧勝した札幌記念が示しているように、今の函館の芝は、コース適性の有無が、多少の能力差を楽に逆転させてしまう状態になっている。トウケイヘイローは確かに強いが、ロゴタイプを12馬身以上もチギることになったのは、コース適性と重馬場の巧拙が加わっての結果だろう。

 となると、デビューから16戦して13戦が札幌か函館で、ここまで4連勝、6連続連対というストレイトガールは、「洋芝で速く進む走り方」をマスターしたものと思われる。前脚のかき込みも、トモの蹴っぱりも、すっかり洋芝仕様になっているに違いない。

 いや、それにしても先週日曜日の武豊騎手は見事だった。特別3連勝を、トウケイヘイローによる札幌記念勝ちで締めくくった。
 その3勝はすべて、1番人気ではない馬での勝利だった。

 彼は今月、8月は18日まで8勝しているが、そのうち1番人気だったのは3日の新馬戦のみ。

 鶏が先か卵が先かの世界だが、「いい馬、評価の高い馬にたくさん乗るのがいい騎手」と言えるので、彼はあまり喜んでいないかもしれない。が、これは、彼の抜きんでたスキルを示すデータであることに変わりはない。

 リーディングにいた期間が長かったのでみな忘れているが、彼はもともと「王者・武豊」だったわけではない。まだ実績のなかったころ、とても勝負にならないと思われた馬で「え?」と驚くような結果を出し、少しずつ質の高い騎乗馬を集めた。「武豊」のネームバリューが先だったわけではなく、「腕」が先だったのだ。

 さあ、今週も、彼の「腕」を楽しませてもらおう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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