復帰を願う

2013年10月19日(土) 12:00

 今週、いくつかの興味深いニュースが舞い込んできた。

 ひとつは、来年からJRAの2歳重賞が大きく変更される、というもの。
 まず、現在、中山芝1600mで行われている朝日杯フューチュリティステークスを、同日(今年は12月15日)の阪神芝1600mに移行する。そして、中山芝2000mで行われている、オープン特別のホープフルステークスを格上げし、GI並みの1着賞金6500万円のGII(朝日杯は7000万円、阪神ジュベナイルフィリーズは6500万円)として施行する。将来的にはGI昇格を目指すという。

 朝日杯の勝ち馬はその年の2歳王者となっているわけだが、1994年に三冠馬になったナリタブライアン以降今年のロゴタイプまで、2歳王者はクラシックを勝っていなかった。そのほか2010年に三冠で4、2、2着になったローズキングダムは惜しいところまで行ったが、それでもこれだけ「2歳王者決定戦」とクラシックが乖離してしまうと、タイトルの重みが感じられなくなってしまう。
 そうした現状からすると、舞台を阪神芝外回りの1600mにするのはいいことだと思う。そのコースで阪神ジュベナイルフィリーズが行われるようになってから、勝ち馬がダービー、オークス、ジャパンカップなど東京芝2400mの大レースも勝って、「クラシックディタンスとの直結ぶり」を実証している。

 そして、ホープフルステークス。こちらは皐月賞と同じ中山芝2000mだ。阪神ジュベナイルフィリーズと牝馬クラシック第一弾の桜花賞が同じコースで行われているように、2歳戦を締めくくるビッグレースとクラシック三冠第一弾が同じ舞台になるという点で、牡牝のコンセプトが統一されるわけだ(そうなると朝日杯が浮いてしまうのだが)。皐月賞は、施行時期の関係で芝の状態が悪くなることが多く、直線の短さと併せて、特に綺麗なストライドで末脚勝負をする若駒には「嫌な舞台」と見られがちだが、同じ中山芝2000mの弥生賞の勝ち馬のその後の活躍を見ると、このコースが別に欠陥コースでもなんでもないことがわかる。ホープフルステークスの格上げが中山の復権につながることを、かつて西船橋の住人だったひとりとして願っている。

 もうひとつ、興味をそそられたのは、来年度のJRA騎手免許1次試験の合格者に関するニュースだ。
 これは「ミルコ・デムーロ騎手が不合格となったニュース」として受け取られているが、私は、唯一の合格者となった人の名を見て、思わず声をあげた。柴田大知騎手の双子の弟で、11年3月に現役を引退した柴田未崎元騎手(36=現・斎藤誠厩舎調教助手)である。
 最近の兄の活躍を見て、この春、再チャレンジを決意したという。

 JRAは、騎手不足の現状を踏まえ、今回から技術試験の免除など条件を緩和して、引退騎手の現役復帰への道筋を広げる施策をとっていた。柴田未崎元騎手が、新試験要項での1次試験合格者第1号となったわけだ。
 来年1月に行われる2次試験をパスすれば、3月には「騎手・柴田未崎」にまた会うことができる。

 彼は、「ミスター競馬」野平祐二氏の教えを直接受けた「ミスターの最後の弟子」と言うべき存在だ。
 実は私は、「野平サロン」と呼ばれた、野平氏のご自宅の居間で、当時調教師だった氏に「今年デビューした新人で、あなたが一番いいと思うのはどの騎手ですか?」と訊かれ、「柴田未崎です」と答えたことがあった。彼の、見るからにやわらかい騎乗フォームが好きだったのだ。

 思い上がりとの誹りを受けるかもしれないが、そのころから、野平氏は、柴田未崎元騎手を起用することが多くなった。たまたまそうなっただけだろうが、ひょっとしたら、騎手が大成するには素人目に映えることも必要だ、と氏が思われたのかもしれない。

 今週、同期の福永祐一騎手が、初の牡馬クラシックのタイトルをもぎ取ろうとしている。
 そんなときに、こうして同じ舞台にもう一度立とうとしている男がいる、というだけでジンと来てしまう。
 好きだった騎手の手綱さばきを、また見られるようになりたい。
 月並みな言葉しか贈れないが、2次試験も頑張ってほしい。

 そして、ミルコにも、合格するまでチャレンジしつづけてもらいたい。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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