菱田裕二騎手(4)『“一番やってはいけない競馬”岩田騎手からの洗礼』

2013年11月25日(月) 12:00

おじゃ馬します!菱田騎手インタビュー最終回の今回は、菱田騎手の騎乗に迫ります。デビューからの2年間で自身が選ぶベストレース&ワーストレースを発表。レース映像を見ながら一緒に振り返ります。未だに悔しさを拭えない痛恨の一戦が明らかに。そして、憧れの横山典弘騎手からかけられた感動の一言も明かします。(11/18公開Part3の続き、聞き手:東奈緒美)


◆若手2人の暴走劇

:デビューからこれまでで一番納得のレースは何ですか?

菱田 :タニノシュヴァリエという馬で、去年勝った特別レースです。初めて勝った特別レースだったんですけど、それが自厩舎の馬だったのですごくうれしかったです。しかも、めっちゃ可愛い馬なんですよ。自分でも上手く乗れたなと思うレースです。

■2012年11月17日、福島5R、小峰城特別(500万下)、3枠6番、12番人気1着

レース映像

:早速レースを見て行きましょう。それまでは後ろからの競馬もしていた馬ですが、この時は好位から。内で、わりと包まれた位置でしたが、直線でバラけて。そこで馬の間を割って差し切り勝ち。いいところで入って行けましたね。

菱田 :そうですね。普通なら空かないところなんですよ。ローカルだからこういうところが空くんです。そこでよく行ったなと思って。僕にとっては結構渾身のレースでした。すごく気持ち良かったです。

:こういう勝ったレースの映像は何回も見ますか?

菱田 :勝ったのは見ます。良いイメージをつけたくて。ネットの掲示板も見るんですけど、勝った馬のしか見ないです。勝った時は掲示板を見て「そうやんな」「そうそうそう」みたいな(笑)。負けた時は絶対に見ない。

:自分で自信をつけてるんですね。逆に、悔しかったレースはありますか?

菱田 :ケイトっていうこれも自厩舎の馬で、2回勝たせてもらってるんですけど、その仔に2回目に乗らせてもらった時に、今までで一番やってはいけない競馬をしてしまったんです。

:一番やってはいけない競馬??

■2012年4月28日、京都3R、4歳上1000万下、7枠13番、7番人気14着

レース映像

菱田 :イレ込み過ぎて、めちゃくちゃにしてしまいました。もう、最悪のレースです。スタートで出遅れたんですけど、すごい押していって、ハナまで行ってしまったんです。

:絶対に行けという指示だったんですか?

菱田 :いえ、行けとも何とも言われてないのに、勝手に行ってしまって。逃げたら勝てるんじゃないかなと思ったんです。そこに川須先輩が付いて来て、2頭でどんどん行ってしまって、2頭とも4コーナーでバテるという。

:後ろにいた馬からしたら「よしよし」ですよね。

菱田 :そうです。このレース、岩田さんが勝ったんですけど、4コーナーで岩田さんに「お疲れ〜」って。もうその時点で僕ら2頭は全く体力がないんですよ。岩田さんにしたら「こいつら、アホやな」と思っていたと思います…。今までで一番恥ずかしいレースです。

:若手が焦っているところで、ベテランの冷静さが。

菱田 :勝つために冷静でいる術を知るというのは、一番難しいですし厳しいですね。自分の技術を向上させていかないといけないなと思います。

おじゃ馬します!

◆憧れの横山典弘騎手が…

:それには経験も大事だと思うんですけど、実際にレース映像を見たり研究もしてるんですか?

菱田 :してます。僕は競馬で乗る馬の過去のレースを全部見ます。あとは、乗る競馬場の前の週の映像を全部見て、「どういう脚質がハマってる」「内が伸びてる、外が伸びてる」とか、そういうのを見てます。

先輩からアドバイスをいただいたりもします。特に僕は、横山典弘さんの騎乗がすごく好きで。カッコいいですし、何でもかんでも外を回すんじゃなくて、内の空いたところを突いたり。すごく上手なレースだなと思います。

:器用なタイプのジョッキーですか。

菱田 :そうだと思います。あと、レースをすごく読めてるんだろうなと思いながら見てます。関東なので一緒に乗る機会は少ないですけど、この間、京都競馬場で久々にお会いして。すれ違いざまに「最近いい競馬してるな」って言ってくださったんです。それがもう、すごくうれしくて。

おじゃ馬します! :見てくれてるというのがうれしいですね。可愛がってもらってるんですね。中井君とはまた違う可愛がり方をしてもらってますね。

菱田 :僕はあんまり人に寄りついて行かないから、好かれないんですけどね。中井はそういうところ、ほんま上手ですからね。その点だけは絶対に勝てないですよ(笑)。多分あいつは、苦手な人にも普段通りに接することができるから。それは騎手として大事なところだと思います。僕はおもいっきり態度に出てしまうので、それは本当にダメなところで。

:対照的な感じで、またそれもいいですね。

菱田 :陰と陽みたいな(笑)? 中井は僕に持っていないところをいっぱい持ってるし、一緒にいて勉強になるところがたくさんあります。ただ、成績で意識したことはそんなにないです。やっぱり、もっと上にジョッキーがいっぱいいますので。だけど、もっと高い位置で競い合えたらいいなと思います。例えばリーディングの上位で争ったら、周りも注目してくれると思いますし、そういう意味でもっと高いレベルで切磋琢磨していきたいなと思います。

:菱田君が、自分の中で騎手に向いているなと思うところはどんなところですか?

菱田 :う〜ん、まだまだ騎手として自信はないし、競馬が終わって反省することしかないんですけど。でも、平日もそれを糧にして、例えば木馬に乗って修正しようとしたりビデオを見たり、そういうのはすごくやれています。それが好きでやれているので、そういうところは自分でも騎手に向いてるかなと思います。

:得意な騎乗パターンはありますか?

菱田 :僕は、逃げ先行です。最近ちょっとずつですが、「この感じで行ったら逃げ切れるんだ」というのが分かってきたんです。体感で分かる人もいるんですけど、僕は1ハロン何歩で行っているかというのを数えてるんです。

:馬によって差は出ないものですか?

菱田 :ありますけど、ペースが上がって来たらそんなに変わらないんですよ。その馬の歩幅は分かっているので、それを頭の中で計算して、「これぐらいで行ったら逃げ切れるな」って。中舘英二さんや藤田伸二さんは、それを極めてるんだと思います。

:ペース配分というのは、横山典弘騎手もすごい上手なイメージです。

菱田 :逃げでペース配分を考えるのは、自分がペースを作っているから分かるんですけど、馬群の中でペース配分を考えるって結構難しいんですよ。それができるのは本当にすごいと思います。やっぱり天才なんだと思います。

:菱田君は天才肌か努力型どっちですか?

菱田 :僕は全然天才じゃないです。努力するしかないと思ってます。ただ、このままだったら埋もれて行きます。すぐに。だから、這い上がって行かないと。まずは早く100勝ジョッキーになりたいですね。100勝したら、ひとつ壁を超えた感じがします。

:この先どんな騎手になりたいですか。

菱田 :僕は個性のある騎手というか。例えば、武豊さんの競馬を見てたら、「豊さんだ」って分かりますよね。福永祐一さんや四位洋文さんもそうですし、やっぱり一流の騎手はパッと見たら「誰々だ」って分かるので。そういう個性のある騎手になりたいなと思います。あとは、人気やその場の状況に惑わされないで、いつも心に芯を持って競馬に乗りたい。心の波をちょっとでも無くせるようにしたい。それが今の課題です。

:最後に目標レースを教えてください。

菱田 :日本ダービーです!(了)

おじゃ馬します!


【次回予告】

エリザベス女王杯でメイショウマンボがGI3勝目をマーク。武幸四郎騎手とのコンビで、牝馬路線の主役の座へと上り詰めました。この武幸四郎騎手、兄の武豊騎手を積極的に起用されている松本好雄オーナーに、単独インタビューを決行。競馬関係者から信頼の厚い松本オーナーの素顔と馬主としての信念に迫ります。

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東奈緒美・赤見千尋

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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