義経神社初午祭

2014年02月05日(水) 18:00


◆放たれた矢を拾うと幸運が訪れると言われていることから破魔矢争奪戦は毎年最も盛り上がる

 去る2月4日(火)、平取町にある義経神社にて初午祭が行われた。午年の今年は例年よりも多くの参拝客が集まり、昨年に続いて札幌よりバスツアーの団体も来訪し、なかなかの賑わいとなった。

義経神社

平取町にある義経神社にて初午祭が行われた

 午前11時。神馬2騎を先頭に、宮司の先導によって神社敷地内の参道を参列者が参進するところからスタート。肌寒いながらも幸い天候に恵まれ、一行は10分ほどかけ参道を一周した後、社殿前に戻ってきた。その後、社殿内で祭儀が行われ、多くの牧場関係者が愛馬の無病息災などを祈願した。

山内を参進する御者、神馬、参会者たち

山内を参進する御者、神馬、参会者たち

 この日のハイライトは、恒例の「矢刺しの神事」。例年、年男が直垂姿に身を包み、行事者となって社殿前でその年の歳破の方角に向けて破魔矢を三射する行事だ。

 今年の行事者は、義経神社責任総代の平村尚人氏。厳密にいえば年男ではない(未年)が、古希祝いということで行者を務めることになったらしい。一連の神事が終わった11時45分頃、神馬のウイングスオブヒロ(12歳、牝馬栗毛)に跨った平村氏が、北の方角に向けて破魔矢を1本ずつ馬上から放つと、集まった多くの人々が矢の行方を見定め、いち早く拾おうと、一斉に落下点目がけて殺到した。

平村氏が北の方角に向けて破魔矢を1本ずつ馬上から放つ

神馬に跨った平村氏が北の方角に向けて破魔矢を1本ずつ馬上から放つ

 破魔矢争奪戦は毎年最も盛り上がる。この時、放たれた矢を拾うと幸運が訪れると言われていることから、昨年などは1本の矢を2人が掴み、お互いに譲らず、結局真中から折れてしまうというハプニングもあったほどだ。やはり体力勝負なのは確かで、近隣の牧場従業員や道営ホッカイドウ競馬の厩舎関係者など若者が多く参加するのもこの神事の特色である。

 だからと言って、百パーセント体力だけで争われるわけではない。今年は、平村氏の弦の引き方が弱かったために予想されたほど飛距離が伸びず、たまたま矢が足元に落ちてきたのを拾ったという幸運な女性がまず1本目をゲットした。日高町豊郷の石原美奈子さん(46歳)で、「びっくりしました。偶然近くに落ちてきて・・・。良いことがあると嬉しいですね」と語っていた。

 2本目からはコツを掴んだらしい平本氏が明らかに飛距離を伸ばし、1本目よりは遠くに破魔矢を射た。それを空中で直接掴んだのは、遠く岩手県から参拝に訪れた桜田浩樹調教師(38歳)であった。この人はずいぶん前から見かけていたが、伺ったところでは「先代の時代からずっと毎年来ている」とのこと。「嬉しいです。父が以前一度拾ったことがありましたが、その時には、木に引っ掛かったのが偶然自分のところに落ちてきたのを拾ったらしくて・・・。そのせいかどうか知りませんが、あまり御利益がなかった(笑)と聞きました。でも今回は空中で掴むことができたので、これをきっかけに厩舎の成績が上がれば嬉しいですね」と表情を綻ばせた。

 3本目の矢は、ホッカイドウ競馬の調教師である田中淳司調教師の手に渡った。田中調教師は昨年絶好調で、6日東京で行われる「NARグランプリ」にて殊勲調教師賞を受賞することになっている。管理馬のハッピースプリントが12月に全日本2歳優駿(川崎)を制し、年度代表馬に輝いたのは周知の通りだ。破魔矢を手中に収め、今年もまた好調が続きそうだ。

 無事に大役を終えた平本尚人氏は、「ホッとしています。破魔矢に込めた思いですか?まず1本目は皆様の無病息災を、2本目はアベノミクス効果がはっきりと生まれるように、そして3本目には、この日高管内で今年生まれる予定の約5千頭のサラブレッドたちの活躍を念じて矢を放ちました」と記者団からの質問に答えた。

幸運の3人

破魔矢を手にした幸運の3人(写真左から石原美奈子さん、中が桜田浩樹さん、右が田中淳司さん)

 時間にしたらそれほど長いものではないが、この行事は見せる要素もあり、また神社のロケーションも素晴らしく、いつもここを訪れると厳かな気分になってくる。現社殿は昭和36年に建立されたものと聞くが、日高に数ある神社の中でもひときわ風情のある建物だ。周囲は木々に囲まれ、平取市街地を見下ろす絶好の場所に建てられている。社殿の正面まで専用道路が設けられており、参拝もしやすい。

 ひとつの集客イベントとして、例えば行事者を公募するというのはいかがだろう?これは不謹慎な話だろうか?馬産地の伝統行事として、もうひと工夫加えるとまだまだ多くの参拝客が見込めるような気がするのだが・・。因みに冒頭で記した参拝ツアーには33人の参加者があり、今年も募集の段階からかなり人気が高かったという。多くは年配者だが、まずは日高に足を運んでもらうことからすべてが始まる。これらの人々が即座に競馬ファンになってくれるとは思えないが、こうしたことの積み重ねが大切だ。また来たいと思って頂けたらしめたものだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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