【トレセンお仕事ガイド】密着取材第2弾!調教班トラックマンの職人技を学ぶ(1)

2014年04月28日(月) 12:00

おじゃ馬します!
競馬専門紙『馬サブロー』とのコラボ企画最終章。先週は、赤見千尋さんが「厩舎班」の仕事に密着しましたが、今週は馬の状態を見るのに欠かせない「調教タイム」の秘密に迫ります。登場いただくのは入社15年目、グリーンチャンネルのパドック解説でもおなじみ、美浦・調教班の加藤剛史記者。膨大な数の追い切り馬を、たったひとつのストップウォッチと双眼鏡を片手にさばいていく“職人技”を学びます。


■LESSON1:ゼッケン番号を取る!

―4月10日(木)朝5:45、美浦トレセン。春とは言え、ピリッと冷たい空気の中、追い切りを前にした馬たちがすでにウォーミングアップを始めています。

赤見 今日は1日よろしくお願いします。前回は栗東で安里真一記者に、「厩舎班」のお仕事を体験させてもらいました。(→安里記者の記事はこちらから)

今日は加藤記者に密着して「調教班」のお仕事を学びたいと思います。実は、安里記者からこんなお話を聞いてきました。

▼安里記者の証言

想定班(厩舎班)は慣れればどんな人でもこなせるものだと思いますが、時計班(調教班)は育つのに時間がかかります。さらに、ある程度のところまではいっても、そこから先はセンス。加藤君はセンスが抜群です。彼が担当しているのが、一番頭数の多い美浦のウッドコース。栗東だと坂路で追い切る馬が多いですけど、美浦はウッドが多いですからね。彼の仕事は一度見てみるといいですよ。特に水曜の仕事は度肝を抜くと思います!

加藤 そんなふうに言ってました(笑)? ありがとうございます。想定班とはまた違う仕事ですので、ぜひ覚えていってください。今は調教馬場の開門が6時なのですが、開門直後は追い切りのラッシュなので、先に簡単に説明しておきますね。まず、時計班とは、「時計」と「ゼッケン」を取るのが基本的な仕事です。

赤見 「時計」と「ゼッケン」ですね。

加藤 はい。調教では各馬が調教ゼッケンをつけていますから、その番号(1〜4桁)を控えることでどの馬なのかが分かります。時計というのは「タイム」はもちろん、「コース」、今回ならウッドですね、助手・騎手などの「騎乗者」(ヘルメットの色で判別)、「何分どころ」という内外の通ったところ、軽く追ったとか馬なりなどの「脚色」、併せ馬ならそれぞれの位置、これが全部そろって出来上がりになります。

赤見さん、ちょっと移動しましょう。(スタンドの反対側に)開門を待つ馬たちが集まってきている頃です。馬場に入る前に事前にチェックしておくと、どの馬が誰を乗せて追い切りそうかっていうのが分かるんですね。

おじゃ馬します!

▲仕事のコツ!馬場開門前に追い切りをしそうな馬を事前確認

赤見 ちなみに、いつも何頭くらいの時計を取るんですか?

加藤 今日は100頭くらいですが、昨日は450頭くらいでした。追い切り日の水曜ですし、福島も始まって3場開催なので、すごい頭数でした。水曜だと馬場に入ってからではゼッケンを見切れないので、ここで先にチェックしておかないとという感じですね。

―下見が終わり、記者席へ戻って追い切る馬の登場を待ち構えます。

おじゃ馬します!

▲何重にも重なる調教コース、オレンジのラチが今回のウッド

加藤 まずは双眼鏡を使って、ゼッケンと騎乗者を確認してメモしてください。ひとつ、大事なことがあります。今の併せ馬の主流が、向正面はバラバラで行って、直線で併せるというのが多いんです。なので、向正面での順番と、直線でどういう形になったかというのも見ていてください。

赤見 がんばります!

―と、意気込んだものの、これが思った以上に難しい作業。なかなか上手くできない赤見さん。

赤見 併せ馬だと内側の馬のゼッケンが見えません。

加藤 そうですね。直線だけで見ると内側の馬が見えないですよね。だから、向正面のうちにそれを確認しなくてはいけないんです。

赤見 なるほど。目の前の馬を見ていて、番号は確認できても、乗っている人が分からなかったり、そうこうしているうちに、次の馬が入ってきて追い切りを始めていて…。頭がごちゃごちゃになってきた上に、双眼鏡で酔ってきました…。

加藤 まだまだ酔っていては困りますよ(笑)。最初は、何が起こってるか分からないでしょう? 馬場に入ってくるのも、向正面からと直線側から入ってくるのがあって。昔は向正面しかなかったのかな。いろいろ変わってしまって、結構厄介なんですよ。

おじゃ馬します!

▲追い切る馬たちがどんどん馬場に入ってきます

―開門直後の追い切りラッシュ。わずか30分の間に、ウッドコースだけで約50頭が追い切りました。

加藤 それでは、いったん整理してみましょうか。「調教ゼッケン一覧表」を見ながら、合っているかチェックしていってください。

赤見 「1112番」……いないですね。いきなり間違ってる。

加藤 おしいですね。「1132」です。

赤見 「382番」は…あった! 「2394番」は、乗っているのがジョッキーとは分かったんですけど、誰なのかが分かりませんでした。

加藤 乗っていたのは柴田未崎騎手でしたね。

赤見 あぁ。ゼッケン番号と騎乗者すら、全然追いつけなかったです。本当に何が起こってるか分からない。広く見てると目の前の馬が見えなくなるから、とりあえず目の前の馬を見ているはずなんですけど、ゼッケンを見るの必死で。そうなると、併せ馬の内の馬が見えない、動きが見えない、そうすると次が来てるという…。

加藤 ふふ(笑)。最初はそうなるんです。今日がここまでで50頭くらいですが、昨日だとここまでで楽に100頭は超えていました。これだけの数が来るので、僕たちの仕事は、厩舎服と馬を覚えるのが大切かもしれないですね。ゼッケン番号って時期で変わりますから、最終的にはゼッケンを見なくても馬を覚えなきゃいけないんです。想定班は人の顔を覚えるのが仕事なら、僕らは馬の顔を覚えるのが仕事ですね。

赤見 これを1人でこなすんですか?

加藤 いやいや。今日みたいな木曜だと、担当を分けなくても1人で取れます。でも、水曜なんてひっきりなしに馬が来るので、時計を押す人とゼッケンを取る人で分けていますね。

赤見 コース毎に担当が決まっているんですか?

加藤 そうですね。北馬場と坂路に1人ずつで、ここの南馬場が6人でコース毎に分かれているという体制です。

おじゃ馬します!

▲加藤「想定班は人の顔を覚えるのが仕事なら、僕らは馬の顔を覚えるのが仕事」

■LESSON2:時計の取り方!

―いよいよ調教班の花形業務、調教タイムを計測することに。それにしても、ストップウォッチはたったひとつで何頭もの馬のタイムを取るというのは、いったいどういうことなのでしょうか。

加藤 次は、時計を取ってみましょうか。ストップウォッチを左手に持って、右手には鉛筆ですね。ウッドのハロン棒は青と黄のしま模様です。ハロン棒を過ぎた毎に、右上のボタンを押していってください。ストップウォッチの見るところは・・・

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東奈緒美・赤見千尋

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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