「馬たちの一生懸命な姿を競馬場へ観に来てあげて下さい」高橋康之調教師にインタビュー

2014年05月13日(火) 18:00

競馬の職人


 NHKマイルCから東京競馬場では5週連続G1競走が行われます。競馬のゴールデンウィーク第二弾が始まるって感じで盛り上がってきましたね。

 NHKマイルCのミッキーアイルは逃げ切りの難しい府中の長い直線をずっと平均ラップをふみ、1歩も前を譲らないままの勝利。ミッキーの脚の強さと粘りの根性、それにぴったり合わせたというより愛馬を信じきった浜中騎手に拍手です。(パチパチ)

 デビュー5戦すべてマイル戦で重賞2勝を含む4連勝中。5連勝目でG1ゲット。まだまだ遊びながら走っていたというミッキー。次はどんなレースを見せてくれるか楽しみですね。

 昨日は6月にブラジルで行われるサッカーW杯の代表選手が発表されました。ザッケローニ監督がW杯日本代表選手を「カワシマ…」と日本語で読み上げられた瞬間、G1馬へ騎乗依頼された時の気分を思い出しドキドキしました。(僕には関係ないのですが…)

 競馬界でも新人調教師が、それぞれの思いを持ってスタートされました。その辺りに潜入していきたいと思います。

 新人調教師第二弾は高橋康之調教師にスポットをあてお話をお伺いしました。

常石 厩舎開業そして「スズカカイゼル号」で同期の後藤騎手騎乗で初勝利おめでとうございます。同期が手綱を取って勝利は嬉しいですね。

 話は変わりますが、先生その頭どうされたんですか?僕も丸刈りですが自分自身ではなかなか気に入ってます。先生もよく似合っていますね。アンちゃん時代を思い出しました。(ぺこリ、ごめんなさい)

高橋 ありがとうございます。あのレースをねらっていたので、馬の仕上がりもよくいい勝負ができました。

(頭をかきながら)似合ってないかな?初心に戻って一からスタートってことかな。あとはいろいろと忙しくなるから時間短縮。時間を有効に使っていかないとね。バリカン買ってきて自分でガリガリしました。(散髪代節約のため今度は僕もお願いします)

常石 開業の準備は大変なんですね。これからどんな馬を作っていきたいですか?

高橋 騎手時代に池江泰郎先生にお世話になりG1馬やオープン馬に沢山乗せて頂きました。強い馬独持の雰囲気というかオーラがありました。その背中を知っているのは大きな財産だとおもいますし調教からレースへ持っていくには何をすればいいか?どう繋げばいいか?を経験できたことが今から活かせていけると思います。

 開業して馬を育てていくためにスタッフといっぱい話し合いました。厩舎スタッフは、ベテランぞろいなので安心して仕事を任せられます。

 僕の先輩騎手だった内田浩一さんを筆頭に沢山の助手さんが調教をやってくれています。馬を育てていくことについては全部言わなくても一言二言でパっーと動いてくれますし、その内容についてもわかってくれるので安心しています。

競馬の職人

左は内田浩一調教助手、真ん中は高橋康之調教師

常石 馬作りの中で「ホースマンシップ」という言葉をお聞きしたんですが、具体的にはどんなことですか?

高橋 「馬とコミュニケーションをとろうとする意識」です。馬たちが僕たちに見せる仕草や行動に何の意味があるのか、それを見て、考えて、行動することが大切です。

「僕たちはこんな方法で調教をやっています」 というのではなく「自然に馬たちと接していく」という意識です。

 馬の一番の魅力は、一生懸命走る姿です。その走り方や普段の行動にどんな意味があるのか、考えて人はかかわっていかなければいけないと思います。

 お互いのコミュケーションをとり信頼関係を作っていくことがホースマンシップということです。

 僕はいつも馬が顔を出しているところをすれすれに歩くようにしています。何かしらのモーションをかけ馬が人に対してどういう行動を示してくれるのか。

 人に対して「快」か「不快」か、馬の性格や行動の意味をよくわかってあげないとお互いの気持ちがすれ違ってしまいます。人は心にゆとりを持って馬の反応を待ってあげる余裕が大事です。

 誰が乗ろうとしているのかわかるように、馬の顔を見てあいさつしてから乗る。そういうささいなことが馬にも通じて信頼関係ができるのではないでしょうか。

 ヨーロッパへ研修に行った時、1か月近くゲートに入らなかった馬がホースマンシップの方と少しコミュニケーションをとった後10分くらいでゲートに入りました。

 その時は、何がどうなったのかわかりませんでしたが、ナチュラルホースマンシップを勉強した今は、わかります。

 馬自身が人の指示に対し「快」と思って動くことができるように育てていくことが大切です。馬だけに限らず厩舎運営も「快」と感じて働くことでコミュケーションが広がり信頼関係が強くなっていくと思います。

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常石 先生、それって乗馬にも通じますね。僕は今、乗馬をやっているんですが、あの子達は指示があるまで絶対に動かないし馬の後ろに行ってもまったく蹴らないですね。競走馬だったら後ろに行くなんてありえないですよね。

高橋 競走馬でもしっかりコミュニケーションが取れていたら大丈夫だと思います。引退した後でも乗馬やセラピー馬になっている馬たちもいますから。そんな人間が好きでいてくれる馬を育てたいと思っています。

常石 楽しみですね。僕もホースマンシップのこと勉強します。ふっと気がついたんですが厩舎には時計がないし大仲(厩舎の休憩所)の前に看板がありますね。

高橋 時間に追われるのではなくじっくり馬とコミュニケーションをとって納得いく仕事をして欲しいと思っています。それにベテランになると調教で鍛えられた体内時計もしっかり持っているようですしね。看板は、その日の目標かな。ランダムでかわりますよ。

常石 みんなで確かめ合うことはいいことですね。最後にフアンの方へメッセージをお願いします。

高橋 馬を育ててくれるのは、厩舎の人たちだけではありません。沢山の馬主さん、牧場関係者さん、報道の人たち、いろんな職種の業者さんなどで競馬社会を支えてくれる人たちで成り立っています。そんな人たちに大切に育てられてきた馬たちの一生懸命な姿を競馬場へ観に来てあげて下さい。いつも、競馬を楽しんでくれているフアンの人たちに感謝します。

常石 貴重な時間ありがとうございました。ホースマンシップのことを考えながら厩舎訪問したいと思います。


 4月16日、後藤浩輝騎手が栗東に来られていたので高橋先生のお話をお聞きしました。

常石 高橋厩舎の初勝利おめでとうございます。

後藤 やっちゃん(高橋康之調教師)と僕は同期なので嬉しかったです。開業の時、お祝い出来なかったので勝ったらしようと思っていたので大きな花を贈ろうと思います。2人は競馬学校時代落ちこぼれだったのでお互い、苦労しました。デビュー後は関東と関西に別れたので淋しかったけれど、これで関西に来ることも多くなればまた会えるからいいね。

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栗東に来ていた後藤騎手

常石 僕も嬉しかったです。またいろいろ取材させてくださいね。今度は2勝目ですね。

後藤 こちらこそよろしくお願いします。次は重賞勝って2人で海外へ行くんですよ。やっちゃんは調教師で僕は騎手として育てる側と乗る側で2人3脚。やっちゃんは勉強家ですし、いっぱい苦労していることも知ってるので頑張って欲しいです。

常石 ホースマンシップについてどう思いますか?

後藤 乗る前には、鼻面をなでてコミュニケーションをとって信頼関係を作っています。でも馬の目は絶対に見ないようにし視界に入れない。馬自身に自分より下に見られると乗りにくくなるからね。あ・うんの呼吸で乗りますよ。育てる側と乗る側もあ・うんの呼吸です。大事なことだと思います。

常石 真の男の友情というか強いキズナでつながっているんですね。うらやましいです。ありがとうございました。

P.S. 4月27日東京競馬場10Rで落馬をされた後藤騎手。いつも強い信念で騎乗される後藤騎手ですので、回復を心待ちにしています。お大事になさってください。

***

 高橋先生には公私ともに大変お世話になりました。特に落馬した後に復帰を目指してリハビリをしていたころ、調教師になるために勉強をされていたその勉強会に僕も参加させてもらいました。自分のことすらまともに出来なくて歩くのもふらふらしていたころ、勉強会に参加するなんてとんでもないことだったのに快く受け入れてくれました。勉強会の様子を観てこれ以上無理だということもよく見極めてくれて、僕に無理しないでまずは体がしっかり動けるようにと諭してくれました。

いつも「つねちゃん」とにっこり笑顔で声をかけてくれるのが嬉しいです。これからもよろしくお願いします。今日は貴重なお話ありがとうございました。

つねかつこと常石勝義でした。[取材:常石勝義/栗東]

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常石勝義

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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