スマイルのいない安田記念

2014年06月07日(土) 12:00


◆多くの人が気に懸けるスマイルジャックの引退後

 ダービーが終わって、例年以上にドワ〜ッと疲れが出ている。競馬ファンにとっては、特にダービー翌週に新馬戦がスタートするようになってから、「ダービーが終わると、新たな一年が始まる」という感じがさらに強くなったわけだが、それにしても、近年にないこの脱力感は何だろう……と考えて、はたと思い当たった。

――スマイルがいないからだ。

 そう、去年までは贔屓のスマイルジャックが5年連続安田記念に出走していたので、私にとってはダービー翌週まで「競馬の祭典」がつづいていたのだ。

 今年の安田記念の出走馬は17頭。フルゲートに満たない頭数で行われるのは、1999年以来15年ぶりだという。競馬の神様がスマイルの枠を一頭ぶんあけておいてくれたかのようで、ため息が出てしまう。

 あのスマイルも、今年9歳になった。ファンの多い馬なので、引退後どのような道に進むのか心配している人も多く、知人を通じて私のところにも何件か問い合わせがあった。JRA時代に管理した小桧山悟調教師に訊いてみたら、引退後、どのような道に進むにしても師が最後まで面倒をみるつもりだという。「だから、ご心配なく、と伝えておいて」とのことだった。

 競走馬の進路を決めるのは馬主なので、今後もし何らかの動きがあるのなら、馬主か管理調教師からメディアを通じて発表されると思う。と、何だか含みがありそうな表現になってしまったが、私が伝え聞いた限りでは、まだしばらく現役をつづけるようだ。

 スマイルの代わりに、というわけではないが、美浦トレセンで、小桧山厩舎に来たばかりの全妹タニノシェリーを撫でまくってきた。兄貴と違って優しそうな目をしており、「お前可愛いなー」と声をかけたら顔を寄せてきて、私が鼻面に頬を当ててもじっとしている。毛色も体型も兄とはまるで異なるが、兄が目つきの鋭い男前なら、この馬は顔が小さく、目がクリッとしたアイドル系の美少女である。

 デビューまではまだ時間がかかりそうだが、走る姿を見るのが今から楽しみだ。

 関東地方が去年より5日早く梅雨入りした。

 安田記念にスマイルがいないことに加え、安田記念の前に梅雨になってしまったことも、しっくり来ない感じを強くしているのかもしれない。

『誰も書かなかった武豊 決断』の印税で買ったと思われると嫌なので先に断っておくが、消費税増税前の駆け込みのような感じでクルマを買い換えた。納車されたのが今年2月の……今手帳を見たら6日だ。前のクルマはレクサスCT200hというやつで、デザインが気に入って買ったのだが、首都高で謎の飛来物に襲われるわ、常磐道で飛び石を食らってフロントガラスに傷がつくわ、半年点検に行く途中に右トモがパンクするわ、海底トンネルで左前がバーストするわ、さらに停めている間に当て逃げされるわ……と散々だったので、そうしたものを断ち切りたくて買い換えた。

 川崎大師で交通安全の祈祷をしてもらい、今度こそ、と思っていたら、またフロントガラスに飛び石によるものらしき傷をふたつ発見した。前のクルマで食らったときは、急にトラックに前に入られ、飛んできた石が見え、ビッと音もしたのだが、今回はまったく身に覚えがない。

 半年間もつというレインコートをした直後だったので余計にイジけたが、雨のなか走ってワイパーを動かすと、コーティングのせいでワイパーがガガガッと引っ掛かってやかましくてしょうがない。クルマ用語ではこうしたワイパーの動きを「ビビる」というらしく、さっきカーショップに電話して、「ビビり止め」を塗り直してもらうことにした。

 実はこの稿は、タニノシェリーを撫でまくった美浦からの帰り道に寄ったファミレスで書いている。降りしきる雨を見ると、ワイパーのビビりが思い出され、何だかなー、という感じである。

 さあ、安全運転で都内に戻ろう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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