止水に鑑みる

2014年06月26日(木) 12:00


◆レッドアルヴィスを導いた蛯名騎手の心境

 決断を下さねばならないとき、どんな心境であればいいか。わいてくる雑念を振り払い、正しい判断をしたい。荘子のことば、「止水(しすい)に鑑(かんが)みる」は、このような場面でよく使われてきた。止水すなわち静止した水は澄みきっているので、あるがままの姿を映し出す。人間も、静止した水のように澄み切った心境になれば、あわてることなく正しい判断を下せる。一方、流れている水はざわついているから、姿を映し出すことはできない。流水のように心が波立っていたのでは、正しい判断は下せないということだ。そこで荘子は「人は流水に鑑(かんが)みるなくして」と述べてもいる。

 いついかなる事態に遭遇しようともあわてるなと言えば、競馬が正にそれに相当する。

 初重賞制覇が続くが、出世レース、ユニコーンSを勝ったレッドアルヴィスは、蛯名騎手との初コンビだった。いいイメージだけを胸に抱いていた蛯名騎手は、静止した水のような心境であったから、動きのいいレッドアルヴィスを一旦は控え、じっと好位置で構えることが出来た。向正面の直線コースで、明らかに控え気味にゆったり走っていく人馬を確認することが出来た。追い出しを我慢すると言うより、そこには余裕が感じられた。

 そこに見られた心境は、静止した水のようであり、そこから見えてくるものははっきりしていて、あわてることなく正しい判断につながったのだった。歴代の勝者がダート界の頂点に立ったように、レッドアルヴィスの前途は明るい。テン乗りは無欲に通じる利点があり、今を冷静にとらえている。それによると、まだ緩いところがあり良化の余地を残していると言う。今後が楽しみだ。

 宝塚記念でGI初制覇を達成したサイレンススズカも、南井騎手のテン乗りだった。「止水に鑑みる」こころで、ただサイレンススズカのレースに徹し切った勝利だったが、この戦い方は、武豊騎手がサイレンススズカのこころを「止水」の心境の中でつかんだものだった。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

関連情報

新着コラム

コラムを探す