一番牧草、最盛期

2014年07月02日(水) 18:00

一番牧草、最盛期

ロール牧草


牧草の値打ちもずいぶん下落したものだと驚かざるを得ないが、これもまた日高の現実なのである

 6月初旬は連日好天が続き、雨がほとんど降らずに経過した。しかし、その後、中旬になる頃から、いわゆる「蝦夷梅雨」と呼ばれる状態になり、10日間程度も曇り一時雨のぐずついた天候が続いた。ようやくまた天候が回復したのは下旬になってからであった。

 それを待ち兼ねるようにして日高のあちこちで一番牧草の収穫作業が始まった。ここ1週間ほどは終日晴れの日こそ少ないものの、ほぼ連日雨が降らず、一気に作業が進んでいる。

 しかし、一番牧草の収穫適期はだいたい6月中旬あたり。今年は程よく伸びた時期にちょうどぐずついた天候と重なったため、草地の条件にもよるが、「やや刈り遅れ」気味ではないかと思う。6月下旬になってしまうと雑草が増え、チモシーやオーチャードなどの牧草よりも、リードカナリーなどの背丈が高く茎の太い(したがって嗜好性の劣る)雑草の方が優勢になることから、できるだけ早い時期に刈り取ってしまいたいところ。

 だが、牧草は天候相手だから、晴天が続かなければ刈り取りできない。また早い時期から刈り取ると生育が足りず収穫量が少なくなるため、やはり適期に刈り取ることが良質の牧草を確保するカギとなる。

 一度刈り取った牧草は、トラクターの後部に装着した様々な専用作業機で、反転と集草を繰り返す。晴天続きならば、刈り取ってから概ね4日目でロール状にして倉庫や厩舎の二階などに搬入する。

 ロール牧草は小型サイズで直径120〜130センチメートル、高さも同じく120センチ程度、重量は150キロ〜200キロにもなる。ほとんど機械での作業になるが、牧場によっては厩舎の二階に収容した後は、ごろごろと所定の場所まで人力で転がす作業になる。これは結構な力仕事だ。

ロール牧草

ロール牧草は小型サイズで直径120〜130センチメートル、重量は150キロ〜200キロにもなる

 ただ、ここまでくると安心なのだが、問題は刈り取ってから2日目、ないし3日目くらいで雨に降られるケース。天気予報が変わり、いつの間にか晴れマークが消え、突然翌日から数日間雨マークなどが並ぶこともあり得る。そうなると厄介で、中途半端に乾燥した牧草を雨から守らなければならない。「仮巻き」といって、トワイン(紐)を巻かない状態のまま牧草をロール状にし、そのまま採草地に転がして置いたり、さらに丁寧な牧場では、仮巻きしたロールをいくつかずつ固めて上に防水シートをかぶせ、雨から守ったりもする。何せ、乾牧草にとって湿気は大敵だから、できるだけ雨に濡らさぬように対策を立てなければならない。

 さもなくば、2日目、3日目あたりでラッピングしてしまうか。近年、日高でも急激に普及してきたのがこのラッピングマシンという機械で、本来は乳牛のサイレージ(牧草を生乾きのままラッピングし乳酸発酵させる)を作るためにある機械だが、馬の牧場にも急速に広まったのである。乳酸発酵した生乾きの牧草は、かなりの酸味を伴い独特の臭いを出すが、馬であっても嗜好性は高く、冬場などにはそれが恰好の飼料となる。そのために以前ほど何が何でも乾草で収穫しなければならないということではなくなってきた。ただし、馬の場合、やはり基本となる粗飼料は乾牧草だ。

ロール牧草をはき出す作業

ロール牧草を機械がはき出しているところ

 さて、生産牧場にとって初夏の一大事業とも言うべき一番牧草の収穫だが、近年は在庫がだぶついてきている気がする。総じて日高の場合は、牧場軒数と生産頭数が減少傾向にあるが、一方で土地面積は昔も今も変わらないから、牧草だけが余ってくるのだ。そんなことから、ここ数年の間に廃業したり離農した牧場の土地を、近隣の牧場が「借りて使う」場合には、賃借料を支払わずに土地を使用するケースが激増しているとも伝えられる。

 本来は飼料用作物である牧草を収穫するのだから賃借料を支払うのが普通だが、徐々に土地が過剰気味になってきており、「無料で良かったら牧草を刈り取って管理してやる」という姿勢の牧場が少なくないのだという。また廃業した牧場の側も、そのまま放置しておけば土地が荒れ放題となるために、管理代行を近隣の牧場に依頼するケースも多い。そうなると賃貸料はとても徴収できず、「お願いだから牧草を採って、ただで持って行って下さい」という本末転倒した形になる。

機械での反転作業

機械での反転作業

 和牛生産に転換した元軽種馬生産牧場などがそうした土地を引き受け、機械を持って行って牧草だけを収穫する。牛は馬よりもずっと牧草の消費量が多いので、ある程度の頭数を抱えている和牛農家は、いくら牧草があっても足りない状態だから、そこで両者の利害が合致する。

 ところで先日、我が家の近所の牧場で、ロール乾牧草を無料で差し上げます、という話が浮上した。雨に当たっていない今年の乾牧草だが、ひとつだけ難点を言えば、やや雑草の含有量が多いということであった。その数20個。昔ならばいくらでも引き受ける人が現れたものだが、今では少しでも難がありそうな牧草は、たとえ無料であっても引き受ける人がなかなかいない。運ぶ手間や収納するスペースの問題などいろいろあり、せっかく無料だというのに、引き受け手を探し出すのに相当難儀したらしい。牧草の値打ちもずいぶん下落したものだと驚かざるを得ないが、これもまた日高の現実なのである。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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