善く戦う者は致して人に致されず

2014年08月28日(木) 12:00


何事も受け身に立たされたら苦しい

 果たして、人生の大転換期なるものがあったのだろうか。この職業についたのがスタートの時で、それからずっと顔は未来に向いてきたのは確かだが、心機一転というほどの一大決心をした覚えはない。概ね、決まったひとつの道を歩き続けてきた。心機一転とは、人によって異なるのだろうが、私の場合、過ぎたるを悔いずに、心機を新たに先を見続けるということになっている。そこから充実感を得るには、どれだけ全力投球できたかにかかっている。価値はそこに見い出せるのだ。

 その点、レースは様々な顔を見せてくれる。そして、全力投球の中味に心機の変化のあることを教えてくれる。ハープスターもゴールドシップも、秋の大一番を前にして札幌記念は、将来が見える戦いでなければならなかった。どちらが勝つか、競馬だからそれも大切だが、今回ばかりはそれ以上に、その戦い方に心機の変化を見い出せるかの方が重要だった。ハープスターは、川田騎手が言っていたように、ここ2戦とも他馬について行けるぐらいのスタートが切れていたのが大きい。

 これなら自分のリズムで走ることに集中できたし、自らの意志で動いていくことも可能だった。孫子の言う「人を致す」、つまりレースの主導権を握っていたのだ。ハープスターと言えばどん尻強襲、小回りで短い直線は不向きと決めていたのが大間違い、心機の変化を予知しなければならなかった。完全にレースを支配しての勝利、これは大きい。一方のゴールドシップは序盤のペースに乗れず、向こう正面でムチが入ってから動き出したが、メンバー最速の上がりの末脚を繰り出しながらも、わずかに及ばなかった。こちらは孫子の言葉で言えば「人に致される」のだった。3歳牝馬の有利な条件があったからこその心機一転だったのだが、「善く戦う者は致して人に致されず」で、少しでも受け身に立たされたら苦しいのは、人生も同じこと。2歳馬のステークス、先につながる攻めをはっきり見せて戦いたい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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