中山GJの覇者メルシーモンサン、後輩の調教パートナーとして活躍中【動画有り】

2014年11月04日(火) 18:00

第二のストーリー

▲温泉でくつろぐ現役競走馬ダンディーズムーン

大怪我を克服し、再び人を乗せられるようになった馬たち

 大怪我を乗り越え、今では現役競走馬の調教パートナーを務めたり、大人しくて安心して人を乗せられる馬として活躍している、忍者ホースクラブのエース的存在のギュスターヴクライ。月に1、2度、そのギュスターヴクライに乗りに忍者ホースクラブに足を運んでいるのが、大阪府在住の古銭(こせん)宏子さんだ。

「競馬を見始めたのは2010年からで、武豊騎手が騎乗していたザタイキが故障した毎日杯のニュースを見たのがきっかけでした。その時に競走馬は骨折したら何故安楽死になるのかと疑問を持ち、調べていくうちに競馬に興味が湧いてきました」(古銭さん)

 調べる過程で過去の資料等も目にする機会があり、ハーツクライのカッコ良さにも魅かれた古銭さんは、その産駒のデビューにも注目するようになった。やがてハーツクライ産駒のギュスターヴクライも応援するようになり、阪神大賞典でオルフェーヴルを破ったことで、いずれはGIレースにも勝ってくれるのではと期待を寄せていた。ところがその矢先の故障、しかも競走能力喪失の大怪我で、その行く末がずっと気になっていたという。

「余生を忍者ホースクラブで過ごすと聞き、しかもギュスターヴクライのオーナーを10口募集していましたので、1口なら自分にもできそうだと思って持つことにしました。乗馬もしてみたかったですしね」(古銭さん)。こうしてギュスターヴクライの1口オーナーとなり、今年の3月から忍者ホースクラブで乗馬を楽しむようになった。

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▲ギュスターヴクライとの乗馬を楽しむオーナーの古銭宏子さん

「馬は人を見るので素人が乗ったら落とすという話を聞いていましたが、ギュス君は私がバランスを崩しても、わざと落とそうとしたことはありません。賢くて、こちらのしたいことを先読みしてくれます。マイペースで動じないですし、自分を持っているようにも思います。ギュス君に乗れるのは、本当に嬉しいですね」(古銭さん)

 古銭さんのレッスンを見学させて頂いたが、重賞を勝った元競走馬とは思えないほど大人しく紳士的で、鞍上の指示によく従っていた。しかも去勢をしていないというのが、驚きだった。馬上での古銭さんの表情は柔らかく、時折笑顔すら見える。その様子から、ギュス君に心から信頼を寄せ、リラックスして乗っているのが伝わってきた。そして自分のやるべきことを理解して、しっかりと仕事をこなしているギュス君の姿に、現役競走馬・ダンディーズムーン(牡3)の競走パートナーを務めている時とは違う感動を覚えた。

 忍者ホースクラブには、大怪我を克服して、再び人を乗せられるようになった馬がもう1頭いる。2010年に中山グランドジャンプに優勝したメルシーモンサン(牡9)だ。

 メルシーモンサンは、同じく忍者ホースクラブで過ごしているメルシーエイタイム(牡12)と同じ武宏平厩舎に所属し、平地未勝利ながらも、無類のスタミナを生かして障害で頭角を現し、とうとう2010年にJGI制覇に至った。しかしその後、脚部不安で長期の休養を余儀なくされ、復帰2戦目となった2013年4月13日の中山グランドジャンプで左前繋靭帯不全断裂を発症し、競走を中止。同年4月17日付けで競走馬登録が抹消された。

 当時メルシーモンサンの担当だった三上賢調教助手は、故障から抹消までの短い時間で、同馬の引き取り先を必死に探した。短期間で、しかも故障している馬の引き取り先を探すというのは、かなり困難であったはずだ。担当馬に何とか安心できる余生を過ごさせてあげたいと考える三上助手の強い思いが、忍者ホースクラブに橋渡しをしてくれた人との出会いを呼んだのではないかと思う。

 メルシーエイタイムの隣がメルシーモンサンの馬房だ。同じ厩舎にいたJGI馬が隣同士。馬房から顔をヌッと出すモンサンの前髪の量が多過ぎて、しかも長い。父のアドマイヤベガに流星が似ているような気もするのだが、顔の造作がごつい。前髪とごつさのせいで、良血らしく上品だった父に比べると、見た目がかなりワイルドだ。

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▲見た目がワイルドなメルシーモンサン

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▲調教中のメルシーモンサン、2歳馬(芦毛)を引き連れて先輩風!?

 そして性格もワイルドでうるさいところがあるらしく、「三上さんが会いに来た時、モンサンを引っ張るのはもう嫌だと言っていました(笑)」(宮本さん)。だがモンサンもギュス君同様、今では人を乗せられるまでに脚元が回復している。取材中も、調教中の2歳馬と一緒に馬場を回っていた。

「ムチを入れると耳を絞りますよ。人が困るのが好きなんですよね。困るのを見て喜んでいるんですわ(笑)」と宮本さんが教えてくれたが、2歳馬の横では先輩風を吹かせているのか、至って真面目に調教パートナーを務めていた。どうやらモンサンも、忍者ホースクラブにはなくてはならない存在となっているようだ。

 モンサンと2歳馬の調教を見学し、犬や猫と戯れ、馬房をのぞいては馬の様子を観察する。忍者ホースクラブにいると、取材をしているのか、遊んでいるのかわからなくなる。2004年のシンザン記念(GIII・5着)やきさらぎ賞(GIII・4着)で掲示板に載ったアーバンエスケープ(セン13)は、カメラを向けてもなかなか顔を上げてくれない。

 前回画像を掲載したミスティックエイジ(セン13)は、おすまし顔で馬房から顔を出しているが、実は喧嘩っ早いと宮本さんから聞いた。競走馬を引退して、乗馬として訓練中のサルターレ(牝3)は、背中に何度も顔をすりつけてくる甘えん坊だ。それぞれに個性があって、それぞれにおもしろい。時間が経つのも忘れて馬の観察をしていると、今度はギュスターヴクライとダンディーズムーンの温泉入浴シーンを見学できるという。

 先にお湯に浸かったのは、ダンディーズムーン。温泉の気持ち良さに味をしめているようで、全く抵抗ない様子で傾斜をバックで降りていき、温泉に浸かる。シャワーを顔にかけられると気持ち良さそうに目を細めた。時折、脚でお湯をバシャバシャ叩いて音を立て、楽しそうに遊んでいるあたりに若さを感じる。

 続いてはギュスターヴクライ。こちらもシャワーが顔にかかると気持ち良さそうに首を伸ばした。腰にシャワーがあたると、今度はうっとりしている。これはあくまで人間の尺度だけれど、ゆったり温泉に浸かれる忍者の馬たちは幸せだなと、リラックス状態のギュス君を見ながら思ったのだった。

 この秋、忍者ホースクラブには、新しい動きがあった。

「ウチ(忍者ホースクラブ)が所属する競走馬育成事業組合の代表(宮嶋勤氏)が「一般財団法人びわこ国際競走馬記念会館」を設立したんですよ。競走馬記念会館を栗東トレセンの近くに建設して、馬事産業の情報発信の場とする活動とともに、この法人を通して忍者ホースクラブの引退馬活動への寄付金を受けられるようになったんです」(宮本さん)

 既に寄付金の受付は始まっている。寄付金が受けられると、忍者ホースクラブに暮らす引退馬たちの余生は、より安定したものになるのは間違いない。さらには引退した競走馬を乗用馬として転用するための活動費も増える。この新たな動きによって、馬たちの可能性がさらに広がり、馬たちの未来が明るいものになることを期待したい。(了)

(取材・文・写真:佐々木祥恵)


※「一般財団法人びわこ国際競走馬記念会館」のホームページ http://www.biwako-horse.net/

寄付金についてはこちらをご覧ください。

http://blog.livedoor.jp/ninjyahc/archives/40745465.html
※忍者ホースクラブは見学可です。訪問される前には、事前に連絡をしてください。

忍者ホースクラブ

滋賀県東近江市瓜生津町745-1

電話 0748-23-7822

メールでのお問い合わせはHP内のメールフォームからお願いします。

http://biwako-ninja-hc.com/

忍者ホースクラブのブログ

http://blog.livedoor.jp/ninjyahc/

メルシーエイタイム他を支援したい方はこちらへどうぞ。

お疲れお馬の支援本部

http://sweet-love-horses.jimdo.com/

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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