週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2004年06月08日(火) 21:07

 世界のスポーツファンが期待したスマーティージョーンズによる3冠奪取。実現確実と思われたその光景は、天候が急変した海辺の蜃気楼のごとく、ゴール寸前で幻と化した。最もリラックスした馬が勝つと言われるベルモントS。あたかも、最終追い切りが強過ぎて馬が気負ってしまった昨年のファニーサイドを反面教師とするがごとく、馬を落ち着かせることに専念したジョン・サーヴィスの仕上げは完璧に見えた。唯一の敵は12Fの距離にあると言われたスマーティージョーンズ。オープニング・クォーターが24秒33とレースの入りは明らかにスローで、12Fの競馬を実質的には10F戦に持ち込んだスチュワート・エリオットの騎乗も、非の打ち所のないものに見えた。

 半マイル通過も48秒65とかかっているから、スタミナに不安のある中で先行した馬のラップとしては、ほぼ理想的だったと言えよう。だがそれでも、最後の2Fのレースラップは26秒98。1F平均13秒49だから、おそらくはラスト1Fのスマーティージョーンズはラップ14秒以上という、いわゆる『歩いてしまった』状態になってしまった。これでも、3着以下には8馬身の差をつけたのだから、後続はスマーティージョーンズ以上に『歩いて』いたわけで、アメリカ競馬においては極めて特異な存在である12F戦が、この時期の3歳馬にはいかにタフな戦いかが窺い知れる。

 今後は、3冠の初戦と2戦目を戦い抜いてきた馬には、3戦目のベルモントSでそれ以外の馬に斤量面でのアロウワンスでも与えない限り、3冠達成の瞬間は死ぬまで見られないのではないかとすら思われた瞬間だった。秋のスマーティージョーンズには、地元フィラデルフィアパークのペンシルヴェニアダービーを叩いてBCクラシックへの青写真が描かれているが、そこで彼を迎え撃つべき古馬勢から、大駒引退のニュースが聞こえてきた。

 今年2月のドンHをはじめ、3つのG1を含めて重賞7勝、3月のドバイWCでもプレザントリーパーフェクトの2着となったメダグリアドローが、現在の馬主エドモンド・ガン氏からネヴァーテルズ・ファームに売却され、来年春からケンタッキーのヒルンデイル・ファームで種牡馬として供用されることになった。北米では貴重なサドラーズウェルズ系として、生産者の人気を集めることになるだろう。

 ただしファンにとって不可解というか、納得の行かないのが、メダグリアドローがシーズン後半のビッグレースを走らず、このまま引退することになった事。BCクラシックへ向けたカジノの前売りでも、スマーティージョーンズ、プレザントリーパーフェクトに次いで3番人気に推されて、今季後半戦の北米ダート戦線の主役の1頭と目されていただけに、ファンの失望は大きい。なぜこの時期に引退するかについて、新たな馬主のネヴァーテルズ・ファームや、将来の繋養先となるヒルンデイル・ファームは、「メダグリアドローは競走馬として成すべきことは、全てやったから」と発表しているが、馬が元気なのであれば、プレザントリーパーフェクトとの再戦や、若い世代との対決が見たいと思うのがファン心理だ。関係者の翻意を期待したい。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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