一番牧草収穫作業

2004年06月22日(火) 19:19

 6月初旬、種付けに向かうため国道を走っていたら、もうあちこちでトラクターが走り回っていた。一番牧草の刈り取りが始まったのである。

 このところ徐々に開始が早まっているのは間違いない。従来のチモシーやオーチャードといったイネ科の牧草が伸び切っていない時期に、どこから紛れ込んだのか“新種”の雑草がかなり早い時期からはびこるようになったため、やむなく刈り取りを前倒しせざるを得ない状況なのだ。

 それにしても、6月初旬はまだ種付け時期の真っ只中だから、牧場にとっては両方の仕事を同時進行させなければならない。毎年のこととはいえ、疲労が蓄積する時期でもある。

 一番牧草は、乾草の場合、ほぼ4日間の晴天が必要だ。初日の朝に刈り取ると、3日間はひたすら反転と集草を繰り返して水分を除去する。4日目にいよいよロールベーラーで円筒形のロールに仕上げ、倉庫や厩舎の二階に格納するのである。

 この間の作業はもちろん、すべてトラクターに装着(牽引)した作業機で行う。青空の下、のんびりとトラクターに乗って作業を続けるのは一見のどかに見えなくもないが、これはかなり腰や膝を痛める。何せ長時間に及ぶのと、機械の振動とで体に悪い作業である。

 刈り取り(ディスクモアー)、反転(ジャイロテッター)、集草(ロータリーレーキ)、そして前述のロールベーラーなどなど、一通りの作業手順を覚え、トラクター(と作業機)の取り扱いに習熟するためには、最低でも3年から5年はかかる。誰にでもできる作業のようでいて、実はかなりの経験年数が必要なのだ。

 どこにキャリアの差が出るかというと、一言で表現すれば「事故を未然に防止できるか否か」で決まる。人身事故は言うまでもなく、機械のトラブルや不調をいち早く察知できるかどうかで、その後の対処に大きな落差が生じるのである。

 例えば、反転作業をのんびりと続けていても、突然作業機が異常音を発したり、ガクッと止まったりすることがある。そういうときに、すぐに気づいてトラクターを止め、トラブルの発生源を突き止められるかどうかでその後の修理費が天と地ほど違ってくるのだ。

 規模の大きな牧場は、どちらかというと若い従業員が主として牧草作業に従事することになるため、経験の浅さが裏目に出て、毎年大変な修理費になってしまう、と出入りの修理屋から聞いたことがある。地味な作業だが、トラクターのオペレーターとて簡単なものではないのだ。

 ところで、日高ではここ数年生産牧場数が減少し続けており、それに伴って農地の価格もまた下落している。廃業もしくは他の作目への転換により、採草地も、収穫のための作業機も、少しずつ供給過剰になってきているようだ。かつてバブル景気華やかりし頃には、程度の良い中古機械が払底してしまっていた。しかし今では文字通りピンからキリまでどんなトラクターでも作業機でも中古品が溢れている。と同時に、土地もまた格安で借りられる時代なので規模拡大を目指す生産者にとってはまことに好都合な環境になってきている。

 というものの、裏を返せば、それだけ生産を続けるのが困難になってきているため、牧場数(そして生産頭数も)が減り続けているということなのだが・・・。

 台風北上により、収穫作業は一時中断しているが、また天候の回復とともに、来月初旬までしばらくの間晴れた日はトラクターに乗る生活が続く。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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