迷いを払う勝利

2015年11月26日(木) 12:00


正々堂々としたモーリスのレース運び

 正々堂々とした勝ち方、これほど気分のいいものはない。勝負だから勝たなければならない、それはそうだろう。追いつめられていたら余裕はないから、どんな方法であれ結果を優先させるというのも分かる。だが、それだけでは気分が晴れないのも事実だ。むつかしいことだが、このむつかしいことに打ち勝たないことには成功したとは言えない。こんな難しい課題を自分に突き付るなんて、到底できるものではない。

 だが、これが事業の経営となると趣が違ってくる。経営の神様、松下幸之助の哲学は、その辺のところをしっかり捉えている。どんなに大きくとも小さくとも、それが事業であるかぎり成果はあげなければならず、そのための努力は大切。だが、ただ成果をあげさえすればいいと、他の迷惑もかえりみずでは、その事業は社会的に存在意義を持たない。その成果の内容であり、その方法が正しいかが問題であると。正々堂々とした勝ち方が大切と説いている。大いに考えなければならない点と、兼ね兼ね思っていることだが、叶わずとも常に心すべきことだ。

 マイル戦線に主役が見つからずと言われてきたが、マイルチャンピオンシップのモーリスの勝ち方は、そんな迷いを払う正々堂々としたものだった。春の安田記念の勝利とはひと味違って見えたが、これは、舞台が京都の外回りということもあったと思う。スタート地点が2角の奥、3角坂上までの長い直線ではペースは速くならない。はじめてスタートの良かったモーリスは、ゆったりした流れのため外枠がかえってよく、スムーズに中団より前につけていた。

 5ヵ月半ぶりの実戦を不安視する向きもあったが、堀調教師は「長く休養した分、調整が十分に出来ている」とムーア騎手に伝えてあり、その努力の成果を出すだけと、実に正々堂々とレースを運べたのだった。その余裕が、前を行くロゴタイプの外へ出すとっさの判断につながったのだが、抜け出して行くその走りは、正に圧巻で、実に気分のいいものだった。今年はこれで5戦全勝、安田記念から直行での春秋マイル王は史上初という快挙。この胸のすく気分を励みとして、少しでも自分の力になるように持って行きたいもの。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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