新しい時代につながる素晴らしいレース/有馬記念

2015年12月28日(月) 18:00


ゴールドアクターに関わる人びとの、互いの信頼の勝利

 このレースを最後に引退し、次のステージに向かう馬がいる。隣のゲートにはここで快走し、来季の大きな飛躍を目ざす馬がいる。年末のファン投票によるグランプリは、いつの年もファンを楽しくさせるドラマが待っているが、今年、12万7281人(21世紀に入ってからはハーツクライ=ディープインパクトの2005年に次ぐ入場者数)のファンを集めた有馬記念は、ひとつの時代が終了し、また新しい時代につながる素晴らしいレースだった。  勝ったゴールドアクター(父スクリーンヒーロー)は、初G1勝利がこの有馬記念でまだ【7-2-1-3】。父はAR共和国杯を制した勢いにのって2008年のジャパンCを勝ったが、こちらはレース間隔をあけ立て直し、有馬記念を制覇。上がり馬として4歳秋にビッグレースを制したのは同じでも、父スクリーンヒーローは自分の競走成績を教訓に、産駒たちに「いそいで結果を求めなくても大丈夫」なことを伝えたのかもしれない。モーリスも、このゴールドアクターも、間隔があいても平気である。狙いのG1に全能力を発揮できた。

 ゴールドアクターを管理する美浦の中川公成調教師は、これが初のG1制覇。騎乗した吉田隼人騎手も、G1初制覇。オーナーブリーダーである北勝ファーム代表の居城要さん(90)は、オーナーになってなんと50年、これが初のG1勝ちだという。吉田隼人騎手は11月29日に他馬に足を蹴られて右膝蓋骨を亀裂骨折し、この週が約1ヶ月ぶりの実戦騎乗だった。1週前の追い切りにもまだ乗れず、ふつうならオーナー、中川調教師の判断ひとつで、乗り替わりだろう。ゴールドアクターに関わる人びとの、互いの信頼の勝利でもあった。

 吉田隼人騎手は、互角の好スタートから、気合を入れて一度先頭に立ったあとに、キタサンブラック(横山典弘)、リアファル(C.ルメール)に先をゆずって好位3番手のインにおさまった。内回りの中山2500mのお手本騎乗の特別指定席である。

 横山典弘=キタサンブラックの作ったペースは前後半の1200mに分けると、「前半1分15秒2-(6秒3)-後半1分11秒5)=2分33秒0」。明らかなスローだが、ひとたび隊列が決まってしまうと、トップホースが息をひそめる有馬記念では途中で動いても、多くの場合それは自身が途中でロスを受け入れるだけ。だから、有馬記念は年によって4秒も5秒も勝ちタイムが異なる。

 まして今年はゴールドシップが途中から進出してくるのがみんな分かっている。ゴールドアクターの吉田隼人騎手は隊列が決まる前に気迫でハナを奪って、それから下げた。ずっと我慢し、3コーナーを過ぎても待って、外に芦毛のゴールドシップがみえた4コーナーの入り口から一気にスパートした。ゴールドアクター自身も道中まったくムダな動きをしていない。

 スクリーンヒーロー(父グラスワンダー。母の父サンデーサイレンス。祖母ダイナアクトレス)は、もちろん最初からかなり評価の高い種牡馬だったが、2010年から種付け料30万円でスタートし、種付け頭数は今年2015年まで「84、72、53、80、111、190、…」頭。種付け料は「30、100、200万円…」と上がって、来春は300万円くらいになるのでなないかとされる。競走時も大変な上がり馬だったが、種牡馬となっても評価右肩上がりである。

 ゴールドシップの父ステイゴールドも、途中からどんどん評価の上がった種牡馬だが、近年は・・・

続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。

登録済みの方はこちらからログイン

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

柏木集保

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

関連情報

新着コラム

コラムを探す