欧米1歳馬セール・サーキット序盤戦となる2つのセールが開催

2016年08月24日(水) 12:00


今後の動向を占う上でも関係者が大きな関心を寄せていたセール

 8月8日・9日にアメリカ・ニューヨーク州で行われた「ファシグティプトン・サラトガ1歳セール」と、8月14日・15日にフランス・ドーヴィルで行われた「アルカナ・ドーヴィル8月1歳セール・パート1」に出向いてきた。

 それぞれ、アメリカとフランスのイヤリング・セールの中で、いわゆるセレクト部門に該当する市場である。同時に、欧米1歳馬セール・サーキットの序盤戦となる市場で、今後は、アメリカのケンタッキー、ドイツのバーデンバーデン、アイルランドのキルデア、イギリスのニューマーケットと、各国で続々と主要1歳セールが開催されていく。すなわち、サラトガやドーヴィルの市場は、今年の1歳馬マーケットがどんな状況にあるのか、その動向を占う上でも、関係者が大きな関心を寄せていたセールだった。

 端的に言って、2つの市場は似通った市況を残すことになった。

 総売り上げが、サラトガが前年比2.5%ダウンで、ドーヴィルが前年比4.9%ダウン。平均価格が、サラトガが前年比9.4%ダウンで、ドーヴィルが前年比13.8%ダウン。中間価格が、サラトガが前年比5.0%ダウンで、ドーヴィルが前年比6.25%ダウンと、小幅ながらいずれも値を下げる傾向が見られたのだ。

 そして、サラトガのミリオン(100万ドル)越えが2頭、ドーヴィルのミリオン(100万ユーロ)越えは1頭と、トップエンドの価格帯がそれほどヒートアップしなかったという点でも、2つの市場は共通していた。

 アメリカは一般景気が回復基調にあると言われ、フランスを含めてヨーロッパも、英国のEU離脱で動揺した経済が落ち着きを取り戻しつつあると見られていただけに、競走馬マーケットの下落を想定外と見る向きもあるが、市場関係者の間に悲観的な雰囲気は見られていない。値を下げたと言っても、大きな下落があったわけではなく、ことにドーヴィルは、前年が歴代最高という極上のマーケットだけに、想定の範囲内という受け止め方をされているようである。

 アメリカで耳にしたのは、11月8日に予定されている大統領選挙が、競走馬マーケットにも影響を及ぼしているという話だった。すなわち、新大統領がどのような経済政策を打ち出すのか、見通しが立てづらく、ことにトランプ氏になった場合何をやりだすか予測不能なだけに、経済活動が色々な意味で様子見の状態にあるという側面は確かにあるようだ。

 サラトガの場合、高額馬上位3頭のうち2頭が、愛国のクールモアと米国のストーンストリートが組んだパートナーシップによる購買で、ドーヴィルもまた、高額馬上位4頭のうち2頭が、愛国のクールモアと南アのメイフェア・スペキュレイターズが組んだパートナーシップによる購買で、すなわち、本来ならば上の方の価格帯で張り合うべきチーム同士が手を組んだことが、トップエンドの価格帯を落ち着かせる要因になっている。

 かつては目玉商品を巡って、採算を度外視したトップバイヤー同士の、意地とプライドのぶつかり合いが見られたのがトップエンドの市場だったが、「狂乱」と称されるようなマーケットは展開されない時代を迎えたようである。

アメリカの市場を支配したタピット

 種牡馬別に見ると、アメリカの市場を支配したのは、50万ドル以上で購買された23頭のうち、実に9頭を占めたタピットであった。タピット産駒は、11頭が上場されたうちの2頭が主取りとなり、売れた9頭の平均価格は71万3889ドル、日本円に換算しておよそ7296万円であった。

 注目された新種牡馬の産駒は、6頭上場されたシャンハイボビーが6頭完売、5頭上場されたオーブが5頭完売、それぞれ3頭が上場されたオックスボウ、ペインターもともに3頭が完売と、概ねよく売れていた。

 産駒の平均価格が23万5833ドル(約2410万円)だった、12年の全米2歳チャンピオン・シャンハイボビー(その父ハーランズホリデー)は、骨量があって後躯が逞しく、歩様も力強い産駒が多い印象があり、気持ちがしっかりと競馬に向けば、産駒は動くように思う。

 産駒の平均価格が26万3333ドル(約2691万円)と、シャンハイボビーを上回ったのが、G1ハスケル招待に勝ち、G1ベルモントSで2着となったペインター(その父オウサムアゲイン)だった。

 産駒の平均価格が19万ドル(約1941万円)だった、13年のケンタッキーダービー馬オーブ(その父マリブムーン)は、産駒の出来にバラつきがあったように思うが、そんな中で、45万ドル(約4600万円)で購買された母ミスアトランティックシティの牝馬(上場番号91番)は、牝馬らしからぬ馬格を誇る良駒であったと思う。

フランスの市場を支えた種牡馬はガリレオとフランケル

 フランスの市場を支えた種牡馬は、大御所ガリレオと、フィーヴァー再燃のフランケルだった。

 4頭上場されたガリレオは、このうち3頭が売れて、このうちの1頭は140万ユーロという市場最高価格馬だったことから、産駒の平均価格は81万ユーロ、日本円に換算しておよそ9150万円と、アメリカのタピットを上回る数字を残した。

 今年2歳の初年度産駒が驚異の勝ち上がり率を示しているフランケルの産駒は、上場された9頭が完売し、平均価格は42万2222ユーロ(約4770万円)だった。

 これに続くのが、上場された11頭のうち8頭が、平均33万6250ユーロ(約3800万円)で購買された、インヴィンシブルスピリットであった。

 こちらも新種牡馬は、12頭上場のキャメロット、5頭上場のドーンアプローチ、同じく5頭上場のデクラレーションオヴウォー、2頭上場のダビルシムが、いずれも完売。11頭上場されたアンテロが10頭売却と、良い売れ行きを示した。

 産駒の平均価格が19万8000ユーロ(約2235万円)だった、13年のG1仏ダービー馬アンテロ(その父ガリレオ)は、バランス良くまとまった産駒が多かったように思う。距離的には、マイル以上かなという印象を持った。

 産駒の平均価格が16万7083ユーロ(約1888万円)だった、12年の準3冠馬キャメロット(その父モンジュー)は、体の線が綺麗で、動きが柔らいという、モンジューの特性を受け継いでいる産駒を多く見かけた。

 一方で、完売はしたものの、平均価格は8万ユーロ(約905万円)に留まったのが、現役時代はG1クイーンアンS(芝8F)やG1インターナショナルS(芝10F88y)を制したデクラレーションオヴウォー(その父ウォーフロント)だった。デクラレーションオヴウォーの産駒は、実はサラトガにも3頭上場されていて、こちらは2頭売れた産駒の平均価格は22万5000ドル(約2300万円)だったから、アメリカでの評価の方がフランスにおける評価より遥かに高いという結果となった。デクラレーションオヴウォー自身が、ラーイ牝馬にウォーフロントという配合で生まれた北米産馬で、G1BCクラシック(d10F)でも3着となった実績がある馬だ。14年に愛国のクールモアで種牡馬入りした後、15年には米国のアシュフォードに配置転換となっているが、総じてゴツい馬が多い産駒を見て、実に機敏な配転であったと改めて思った。

 筆者の次のセール上場は、10月4日からニューマーケットで始まるタタソールズ10月1歳市場となる。8月10日付けの当コラムでプレビューしたように、極めて粒揃いの上場馬が揃っているだけに、どんなマーケットになるか、現場取材が今から非常に楽しみである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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