自分自身に勝つということ

2016年08月25日(木) 12:00


外にばかりに目を向けず

 何かをなそうとするとき、その目は外に向けられている。だが、その目を内に向け、自らの心の内にこそ問題があると見つめ直すことが大切なのだと「老子」は教えている。外にばかりに目を向けないで、内に向けよというのは、突き詰めると、本物の強さはそこにあると言っているので、自分自身に勝つということでもある。いくら巨万の富を得たとしても、いつまでも富を追い続けていたのでは、その心は貧しい。自分自身に勝つということがどういうことか、見えてくる。

 札幌記念を勝ったネオリアリズムは、正に自分自身に勝ったその好例だった。ムキになりやすい性格で、レースでためが利くようであればなんとかなると分かっていた。どう折り合いをつけられるか、ルメール騎手の腕の見せどころだった。一年前の札幌で条件戦だったが、初めて騎乗して1800米と2000米で連勝していて、その能力は分かっていたからと述べていたが、はっきりした先行馬が不在の中、逃げるかたちになり、それでもリラックスさせて走らせていた。そのプレイは危な気なく、楽々と逃げ切っていた。札幌の洋芝、小回りコースで2戦2勝の自信は大きく、ネオリアリズムと人馬一体で自分自身に勝つことができた瞬間となったが、それが自分の良さを最大限に発揮できたことにもなっていた。他よりも自分自身、それには道中の折り合いをどうつけるか、その戦い方には、世界のマイル王モーリスの存在を意識する様子は見られなかった。

 一度は自分自身に勝てたことで、ひとつのハードルは越えたが、この先あらたな課題が見えてくるかもしれない。そのとき、また自分との戦いが始まることになる。

 一方、敗戦を喫したモーリスには、どんなことが言えるのか。初の2000米、初の小回りの洋芝と克服すべき課題はあったが、それなりに自分と戦っていたのではないか。賢い馬で我慢も利く馬だから、一度の経験からつかんだものは大きい筈。札幌記念では少し距離を意識していたように思えたので、この2着は、モーリス自身にとり次への大きな布石になったと思いたい。それに、重い馬場では持ち味がそがれていたこともあった。次にどう自分と向き合えるか。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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