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新橋で凱旋門賞談義

2016年10月08日(土) 12:00



「凱旋門賞のマカヒキ、どうしちゃったんスか。あんなもんじゃないでしょう」

 止まり木に腰掛けるなり、ディレクターのレイが言った。

「まあ、確かに負けすぎだよな」

 と、私はウーロン茶で喉を潤した。いくらか秋めいてきたものの、神様は1カ月くらい季節を間違えているんじゃないかと思うほど、日中は暑かった。

 素足にサンダルを履き、Tシャツの袖から出た二の腕をポリポリ掻くレイも、神様ではないが、年中季節を勘違いしているように見える。レイは「麗しい」ではなく「励む」と書くレイで、男だ。仕事柄若く見えるが、私より10学年下だから、もう41歳か42歳になっている。

「島田さん、凱旋門賞を勝つには、日本馬を何頭も出走させて、コース上を日本化させるべきだ、と書いてますよね」

「ああ。そうなれば、コース上だけじゃなく、場内の雰囲気も、100%アウェーが80%アウェーぐらいにはなるだろうし」

「でも、勝つのは1頭だけなのに、招待レースでもないレースに、何頭もの有力馬がリスク覚悟で参戦するかなあ」

 とレイがこちらに滑らせたサンマの刺身の皿を、私は押し返した。ムッとしたわけではなく、あまり好きではないだけだ。

「ディープインパクトがいたときの天皇賞や宝塚記念も、勝ち目がないからと3頭立てや4頭立てにはならなかっただろう」

「それはまた別の話でしょう」

「勝つのは1頭だけだが、何が勝つかわからないのも競馬だよ」

 頼んでいないのに、店の主人が私の前に牛すじの煮込みを置いた。これは好物だ。

「エルコンドルパサーも、2回目の年のオルフェーヴルも、1頭だけで出走して2着だったでしょう。何頭が出るかより、滞在期間とか、現地での受け入れ態勢とか……」

 とレイが話しているとき・・・

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊競馬ブック、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。netkeiba.com初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ダービーパラドックス』。<br /> <br /> 関連サイト:<a href="http://shimada.sports.coocan.jp/" target="_blank">島田明宏Web事務所</a>

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