【ユーザー質問】祐言実行Q&A『“幻のダービー馬”シルバーステート 1年7カ月ぶりの復帰』

2017年06月06日(火) 18:01

祐言実行

▲クラシック戦線を前に屈腱炎を発症したシルバーステートが復帰戦のオーストラリアTを快勝、今後に向けての手応えとは (C)netkeiba

今は先のことより、目の前の一戦一戦を

Q. シルバーステートが復帰戦のオーストラリアTを快勝しました。「幻のダービー馬」とも言われる馬で、復帰が待ち遠しかったです。ぜひ今後に向けた福永騎手の手応えをお聞きしたいです。

 シルバーステートにとって、1年7カ月ぶりの実戦となったオーストラリアT(5月20日・京都12R・芝1800m)。長期間休養したことで、かつての非凡なエンジンや強さがなくなっていたら…という不安もあったが、それも杞憂に終わった。

 調教の時点で思ったが、やはりこの馬のエンジンは凄い。最終追い切りは坂路で強めに追い、53.3-38.2-24.6-11.9。やればやるだけ動くから、これでも加減をしながらの調整だった。

 ただ、以前このコラム(2015年12月22日)でシルバーステートを取り上げたとき、「無理をさせなかったことが、のちのち吉と出る可能性は大きい」と書いたが、休養を経た今も、まだエンジンの性能にボディの完成度が追い付いてない印象を受けた。実際、体付きにも余裕があったし、調教での息遣いもまだ本物ではなかった。だから、正直なところ、復帰戦は無事に回ってきてくれるだけでいい──そんな思いで臨んだ一戦だった。

 レースは2、3番手を想定していたが、思いのほかスタートが速く、結果的に逃げる形に。超のつくスローペースだったとはいえ、最後までほとんど追うところなく3馬身差。やはり1000万クラスでは力が違った。それでも、3〜4コーナーの下りでは、脚元に負担が掛からないよう気を遣ったし、それでもちょっと躓くシーンがあった。そのあたり、まだ体が完全に整っていない証拠だが、この馬は一度使うとスカッとしてくるので、今はその変わり身に期待している。

「極力ダメージが少ないレースを」というのが最大のテーマだっただけに、目一杯に追うところもなく、理想的な復帰戦を終えることができた。幸い、使った後も異常がないということで、何とかこのまま無事に行ってくれれば…と願うばかりだ。

祐言実行

▲「理想的な復帰戦で、使った後も異常がないという。何とかこのまま無事に行ってくれれば…」

 質問にある「今後に向けた手応え」だが、以前にも書いたように、可能性でいえば、世界で通用するポテンシャルを持った馬だと思っている。あまり手放しで馬を褒めることのない自分が、「これまでに乗った馬のなかで一番」と書いたほどだ。それほど、シルバーステートが持つエンジンは規格外。だからこそ、そのエンジンに体がついてこられないのでは…という危惧がデビュー前からあり、残念ながら、その不安が現実となってしまった。

 それでも、こうして無事に復帰してくれたからには、とにかく順調にいってくれることを願うだけ。今は先のことなど考えられないというのが正直なところだ。その先の可能性は、目の前の一戦一戦をいい状態で戦っていった先に広がると思っている。

 条件クラスとはいえ、1年7カ月もブランクがあったら、普通は勝つことは難しい。それだけ能力が高い証拠でもあるが、何より牧場関係者や厩舎スタッフが細心のケアをしてきた成果であり、それだけホースマンたちを夢中にさせる馬だということ。そういったたくさんの人たちの苦労と思いの積み重ねが、今回の復帰、そして勝利につながったのだと思う。

 繰り返すが、この馬に思うのは、「無事にいってくれさえすれば」──本当にそれだけだ。それが叶えば、おのずと未来は開けてくる。この馬が無事に完成期を迎えたら、一体どんな馬になるのか。想像するだけでワクワクする。自分にとってもこの馬の存在が、ひとつの大きなモチベーションになっているのは間違いない。


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祐言実行とは

2013年にJRA賞最多勝利騎手に輝き、日本競馬界を牽引する福永祐一。まだまだ戦の途中ではあるが、有言実行を体現してきた彼には語り継ぐべきことがある。ジョッキー目線のレース回顧『ユーイチの眼』や『今月の喜怒哀楽』『ユーザー質問』など、盛りだくさんの内容をお届け。

福永祐一

1976年12月9日、滋賀県生まれ。1996年に北橋修二厩舎からデビュー。初日に2連勝を飾り、JRA賞最多勝利新人騎手に輝く。1999年、プリモディーネの桜花賞でGI初勝利。2005年、シーザリオで日米オークス優勝。2013年、JRA賞最多勝利騎手、最多賞金獲得騎手、初代MVJを獲得。2014年のドバイDFをジャスタウェイで優勝。

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