取材する側の“気の使い方”

2017年07月08日(土) 12:00


◆難しいのは「敗因」を語ってもらうこと

 netkeiba.comのシリーズ企画、「座談会〜競馬メディアのあり方」はお読みいただいていますか?これまでこういう議論はあったようでなかった(?)ので、ぜひご一読のほどを。

 ちなみに私は興味深く読ませてもらっています。実は私、1990年4月から「ウイニング競馬(旧・土曜競馬中継)」の実況を担当していますが、美浦トレセンに行ったのは2回だけ(そのうち1回は番組とは関係なく、拙著『世界競馬案内』の企画として、故・後藤浩輝騎手と対談するために行ったもの)。栗東トレセンには未だに行ったことがありません。

 それは、番組の中で私に与えられた役割が「とにかくレースを実況すること」だから。おかげで、平日やG1収録のない日曜日には野球をはじめとするスポーツ中継の仕事を入れたり、地方や海外競馬、メジャーリーグの観戦などに出かけられたりしているわけです。

 なので、競馬の世界で取材する側に回ることはほとんどないのですが、野球やバドミントンなどでは、選手や監督、コーチの話を伺いにいくことがよくあります。ですから、取材する側の“気の使い方”はよくわかっているつもりです。

 そういう経験からすると、なにより難しいのは「敗因」を語ってもらうこと。野球で言えば、「なぜ打てなかったか?」、「どうして抑えられなかったか?」、「負けにつながった一番のきっかけは?」を聞き出すのは、なかなか大変です。

 もう30年も前、相撲中継のレポーターとして、負けた翌日の横綱を取材しに行った時のこと。その相撲の記事が載った新聞を脇に置いていたら、とたんにその場を追い出されてしまいました。たぶん、「こんなものを持って来やがって」と思われたんでしょうね。相手の気持ちを“忖度”しなかった私のミス。未熟でした。今なら、横綱の趣味や好きな食べ物の話でもして、まずはその場の雰囲気を和らげることから始めるでしょうね。

 それはさておき、なんとか「敗因」を語ってもらってそのまま放送で伝えたとしても、受け取り方によっては「言い訳」にしか聞こえないことがあります。それは受け手=ファンのみなさんの勝手、と言ってしまうのも無粋な話。どうすればそういう“マイナスのイメージ”を払拭できるか? つまり、選手や監督の奮闘努力の跡をわかってもらえるか? そこを伝えるのも重要だと思うのです。

 ただし、談話そのものを変えるわけにはいかないので、そんな時はそのフォローに気を使っています。それが「選手や監督を甘やかしている。もっと厳しく言わなきゃダメ」と受け取られることもありがちですけどね。

 こんなことを書くとまさに「言い訳」になっちゃうかもしれませんが、取材する側は、取材される側と受け手(視聴者、聴取者や読者のみなさん)との間で、いろいろと気を使っています。どうかそのへんを“忖度”していただければありがたいところであります。

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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