2017年09月20日(水) 18:00
主催は別海町馬事愛好同志会。別海町が後援し、近隣の町村のみならず、道内一円から草競馬の愛好家が集う。特に日曜日のばんえいの日は大変な賑わいになる。
今回は土曜日、乗用馬の部だけを見てきたが、我が浦河町からもポニー乗馬スポーツ少年団がポニー11頭とともに、はるばる遠征していた。因みに浦河から別海までは、距離にして約300キロ。ゆっくり走ると約5時間の道のりである。
土曜日の乗用馬の部では、全16レースが組まれていた。午前7レース、午後9レースという内訳で、昼休みがその間に挟まる。土地柄か、さすがにサラブレッドなどの軽種馬のレースはないが、その代わり、トロッター速歩や午後には繋駕レースもある。そして、ポニーレースも計3つ用意されていた。
午前8時になり、馬場内の本部前テントで受付が始まった。乗用馬の部では1頭につき3000円、翌日のばんえいでは1頭5000円のエントリー料を添えて出走申し込みをする。1頭が何回出走しても構わないルールで、実際に多くの馬がここでは最低でも3回くらいはレースに出る。
開会式は午前9時半。別海町長や地元選出の国会議員、そして町議や農協、漁協の組合長など、背広姿のお偉方が参列しての開会式である。来賓として新党大地の鈴木宗男氏も臨席し、祝辞を披露していた。しかし、そんなさなかでも、馬場ではレース出走に備えて各馬が“朝調教”をつけられていたりもする。
レース開始は午前10時の予定であったが、今年は遅れて実際には10時半からのスタートとなった。第1レースは「トロッター速歩C(2歳馬含む)」とあり、6頭立てである。出馬表を見せてもらった。馬名の次に年齢の欄があり、そのあまりの幅の広さにビックリした。2番ベガ号は29歳となっていた。に、にじゅうきゅう…?かと思ったら、4番スカンダ号は何と1歳と記載されていた。果たしてこの数字は正しいのかどうか甚だ怪しくもあるが、そこがまた草競馬らしいところと言えなくもない。
第2レースは「ポニーキャンター」である。浦河の子供たちはさっそくここに揃って出走していた。なお、第1レースは2000M、第2レースは1000Mである。この競馬場は1周1000Mだそうで、スタート位置は4コーナーあたり。1000Mの場合は、その地点から発馬して、1周回り、直線中ほどの位置にあるゴールを目指す。2000Mの場合は2周である。
レース間隔はひじょうに短い。レースが終わると、1着〜3着馬だけが本部前にやってきて表彰式となる。本部内には達筆な年配の男性が2人控えており、着順を見てすぐさまその場で賞状に馬名と騎手名などを毛筆で書き入れ、賞品や賞金とともに騎手に手渡される。その表彰式が終わると、もう次のレースの出走馬が馬場入りしてくるという早いサイクルでレースが進行して行く。したがって10時半〜12時の1時間半の間に午前中の7レースを全て終えるほどの目まぐるしさであった。
昼休みは1時間あり、その間に広場を取り囲むように軒を連ねる露店を見て歩くことができる。焼きそばやフランクフルトなどのB級グルメの店もあれば、作業衣や長靴を売る店もある。地元で作られている陶器を並べる店、また大阪から来ている通称“熊さん”もトラックで乗りつけ衣料品店を出していた。「フーテンの寅さん」を地で行く人で、この人と知り合ったのは中標津の草競馬だが、かれこれもう10年は経つ。おびただしい数の露店が並び、見て歩くと飽きない。また、広場の中央にはステージが設けてあり、そこでは様々な出し物が演じられている。
昼前後には人出がピークになり、会場には多くの人々が行き来して、露店を覗いたり、海産物や農産物を買い求めたりしていた。そんな人出を見込んで、酪農の町らしく広場の一角には大型トラクターや農機具を展示するメーカーのブースがあったり、軽トラックが売られていたりと、産業祭はひじょうに多彩なイベントであった。
午後のレースが始まった。午前中、速歩レースに出走したトロッターたちは午後、ソルキーを牽引して繋駕レースに出てくる。今や日本でもおそらく繋駕レースはここでしか見られなくなっているはずで、これだけでも必見の価値がある。
今年は2人の個性的な人を目撃した。1人は、三田牧男さん(79歳)で、浜中町の牧場主である。3年ぶりの草競馬参戦とのことで、速歩と繋駕レースに出走し、最終16レースではとうとう優勝するおまけ付きであった。聞けば来月に満80歳の誕生日を迎えるのだそうで「今年が最後かなぁ」と言いながらも、長年にわたり鍛え上げた技術で愛馬サンタロウ号を乗りこなし、達者な騎乗ぶりを披露してくれた。
もう1人は、北太平洋シーサイドライン乗馬クラブの阿部睦也さん(57歳)。この人は草競馬のベテランで、お嬢さんも巧みに馬を操る乗馬一家である。今年は、そのお嬢さんが生んだお孫さん(4歳)と一緒に「2人乗り」で速歩レースに出場し、注目を集めていた。これまで道内各地の草競馬をあちこち訪れたが、2人乗りでレースに出る人は初めて見た。お孫さんと一緒に馬にまたがる阿部さんは実に嬉しそうな表情で、何とも微笑ましい光景であった。一種の「英才教育」なのだろうか。確かにこういう経験を積んで行くと、お孫さんも馬に対する恐怖心はなくなって行くだろうと思われる。
この日、全16レースを消化し終えたのは午後3時くらいのこと。とにかくレースがどんどん片づけられて行く感じで、間延びしているような感覚はまるでない進行であった。
全体的に年々出走馬が減ってきている印象があるものの、未だにこれだけの規模で草競馬を開催しているのは道東ではここ別海だけであろう。是非、伝統の灯を消さぬように末永く守り続けて頂きたいと願うばかりだ。
バックナンバーを見る
このコラムをお気に入り登録する
お気に入り登録済み
お気に入りコラム登録完了
田中哲実「生産地だより」をお気に入り登録しました。
戻る
※コラム公開をいち早くお知らせします。※マイページ、メール、プッシュに対応。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。
コラム
道営ホッカイドウ競馬開幕
BTC体験入学会
第7回ジョッキーベイビーズ
育成調教技術者養成研修第32期生修了式
【オススメの競馬書籍(3)】斎藤修さんの推薦『草競馬流浪記』
競輪
競輪を気軽に楽しもう!全レース出走表・競輪予想、ニュース、コラム、選手データベースなど。