熱戦が繰り広げられた第9回ジョッキーベイビーズ・前篇

2017年10月11日(水) 18:00


子どもたちの真剣勝負、その裏側

 2009年より始まった全国ポニー競馬選手権・ジョッキーベイビーズ(以下JB)は、今年で9回目を迎えた。夏に戻ったかのような暑さに見舞われた10月8日(日)の東京競馬場に、全国各地の予選を勝ち抜いた8人が勢揃いして、今年も熱戦が繰り広げられた。

 すでに報じられているように、今年は2番の加藤雄真君が、ゴール直前で先行する後藤蒼二朗君と高橋駈さんを交わし、東北新潟地区に初の栄冠をもたらした。今週と次週の二回に分けて、2日間の様子をリポートしたいと思う。

さて、今年の出走メンバーは以下の通りである。

1.北海道 高橋駈さん 小6 ハショウボーイ
2.東北新潟 加藤雄真君 小6 栗姫
3.関東 佐藤翔馬君 中1 オオタニハヤテ
4.長野 木村暁琉君 小5 ドリームスター
5.東海 高木蒼武君 中1 エンベツクイーン
6.関西 後藤蒼二朗君 中1 ヒメ
7.九州 源川京汰君 中1 ゴット
8.九州 小田大君 中1 銀次郎

 今年は沖縄予選がなくなり、代わって九州地区から2人が出場することになった。それぞれの氏名と学年の後に記されているのは騎乗馬である。

 前日土曜日の午後2時に東京競馬場事務所に集合した8人は、まず説明会と騎乗馬抽選会からスタートである。全員、真剣なまなざしで翌日までのスケジュールを聞き、レース実施要項を確認した後に、いよいよ騎乗馬がくじ引きによって決められる。その結果、上記のような組み合わせとなった。

真剣なまなざしで翌日までのスケジュールを聞く参加者の皆さん

真剣なまなざしで翌日までのスケジュールを聞く参加者の皆さん

 今年は北海道の高橋駈さんが唯一の女子で、残る7人が男子である。また、加藤雄真君は昨年に続いて2度目、佐藤翔馬君は通算で3度目の出場だ。ここで過去に出走経験のあるのとないのとでは精神的にかなり違うが、騎乗するポニーとの相性や、馬自身の体調などにも左右されるので、結果はまた別物になる。

唯一の女性参加者となった高橋駈さん

唯一の女性参加者となった高橋駈さん

 午後3時に乗馬センターへ移動し、いよいよ騎乗馬と対面する。改めて8人が一列に並ぶとずいぶん体格に差のあることが分かる。加藤君、佐藤君、木村君が小柄で軽量なのに対し、高橋さん、高木君、源川君はやや大柄だ。しかし、それよりさらに高身長でスラリと手足の長いのが小田君である。

前日練習をする加藤君(黒色帽)、佐藤君(赤色帽)

前日練習をする加藤君(黒色帽)、佐藤君(赤色帽)
騎乗馬と対面した高木君(黄色帽)、源川君(橙色帽)、木村君(青色帽)

騎乗馬と対面した高木君(黄色帽)、源川君(橙色帽)、木村君(青色帽)

 一方の騎乗馬は概ね体高が揃っていたが、皮肉なことに小田君の騎乗する銀次郎だけがやや小型で、彼が騎乗するとどう見ても人馬のバランスが釣り合っていない。これでどこまで他の7騎に伍して行けるかがやや気になった。

スラリと手足の長い小田大君と銀次郎

スラリと手足の長い小田大君と銀次郎

 前日の練習で、8人が騎乗し始めたのは午後4時頃のこと。JB発足間もない頃にはもっと長時間の練習を実施していたような記憶があるが、年々、ポニーへの負担を考慮してか、練習時間は短くなってきている。

 また、8頭のポニーの中には、「ご機嫌斜め」の馬もいれば、「走りたくない馬」もいる。

 サラブレッドとは異なり、もともと競馬に出走するために調教されているわけではないので、必ずしも従順な馬ばかりとは限らない。今年も、騎手を振り落としたり、あるいは部班で他馬から遅れ気味になったりという馬がいて、その都度、JRA職員が乗り替わり、“再調教”される場面があった。

 前日練習の最後は、本馬場に出てのスタート練習であった。以前には、夕闇迫る本コースをゴール板まで試走していたこともあったが、今はスタートのタイミングを確認するだけである。2頭ずつのペアで発馬し、50メートルあたりで手綱を緩め、馬を止める。

 その後、厩舎に戻り、馬装を外して、手入れなどを行う。各馬にはJRA職員が「臨時厩務員」のようにして8人のサポートをする体制で、翌日の本番でも、同じ担当者が手綱を引いて本馬場に入場し、スタートまで付き添うことになる。これは第1回からずっと変わらない。

 ここまではスケジュールに沿って淡々とメニューが消化されて行く感じである。回数を重ねてきたことにより、マニュアルがほぼ確立してきたということなのだろう。翌日も好天の予報で、この分ならば晴れた空の下でレースが行われそうだ。それだけでも、心の底からホッとする思いであった。後は、全員の安全な完走を願うばかりである。

 なお、余談だが、この前日の夜は、出場騎手と家族の多くが参加する宴会が開催されるのがここ数年の恒例になっている。回を重ねるごとにポニー競馬という共通のキーワードで結ばれた各地の関係者が個別に連絡を取り合うようになり、いつしか草の根のネットワークができた。これはJBの副産物とも言うべき効果で、人馬の交流が全国規模で続いている。この日も、総勢40人近い人々が一同に会し、それぞれ翌日の健闘を誓い合って解散となった。

 一夜明けて8日(日)。朝から太陽がまぶしいほどの好天である。気温もやや高い。いよいよ当日の朝を迎えた。今日は長い一日になりそうだ。

(以下、次週)

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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