【M.デムーロ×C.デムーロ】第2回『外国人騎手にこんなにチャンスを与えてくれるのは日本くらい』

2018年01月17日(水) 18:01

with 佑

▲今回のテーマは「ヨーロッパと日本の違い」、ミルコ騎手が明かすフランス競馬の難しさとは?

デムーロ兄弟と藤岡佑介騎手の対談、今回のテーマは「ヨーロッパと日本の違い」について。3人とも国内外の競馬を経験。「ヨーロッパに比べたら、日本はすごく優しい」「これほど自由度が高いのは日本だけ」。デムーロ兄弟がこう語る日本の競馬。ヨーロッパとの決定的な違いを赤裸々に明かします。(構成:不破由妃子)


フランス遠征時の佑介騎手は“働きすぎ”?

佑介 クリスチャンの馬乗りとしての技術は、子供の頃からすべてミルコが仕込んだんだよね。

ミルコ うん。だから、クリスチャンがダメジョッキーになったら僕がつらい(苦笑)。でも、子供の頃からすごく一生懸命で、僕が言ったことを忠実に守ってた。クリスチャンは性格もいいしね。性格は僕よりずっといい(笑)。

佑介 クリスチャンからしてみれば、最初はミルコと比べられて嫌だったんじゃない?

クリスチャン デビュー当時はね。でも、3年経ったらそういうプレッシャーもなくなった。周りから「クリスチャン、すごいね!」って言われるようになったから。

ミルコ デビューした頃は、僕と比べて「弟は全然ダメだ」って言ってる人がいたよね。そういう言葉を何度も聞いたことがある。でも、僕は絶対にいい騎手になると思ってた。

佑介 イタリアでトップを極めたのはもちろん、いまやフランスでもリーディング上位を争う存在だもんね。

クリスチャン フランスにはいっぱいいい騎手がいるから、彼らと競い合うのは大変だよ。トップ6のジョッキーは、いいオーナー、いい厩舎と契約をしているので、なかなか馬を取ったりするのも難しいし。

佑介 仮に「あいつ、巧いな」って認めてもらえたとしても、オーナーはすでにほかのジョッキーと契約しているからね。そのジョッキーを切ってまでクリスチャンと新しく契約したいと思わせなくちゃいけないわけだから、それ相応のインパクトが必要で。相当難しいよね。

ミルコ そもそも、外国人ジョッキーにこんなにチャンスを与えてくれるのは日本くらいだからね。

佑介 僕がフランスに行ったとき、クリスチャンもちょうど僕と似たような状況で。下準備の段階から見てるから、どうなるのかなって思ってた。

with 佑

▲フランス遠征中にクリスチャン騎手と一緒になった佑介騎手が語る当時の思い出

クリスチャン 当時は僕のことをみんな知らなくて、全然乗せてもらえなかった。何度も「イタリアに帰りたい」と思ったよ。

佑介 あの頃のクリスチャンは、フランス語も話せなかったし、英語もミルコのようには話せなかったもんね。僕が小林先生にお世話になっていたように、クリスチャンもフランスにいるイタリア人とばかり一緒にいて。

クリスチャン そうそう(笑)。

佑介 何度か一緒にご飯を食べに行ったりしたよね。

クリスチャン うん。でも、佑介はフランスでも毎日働いていたから、すごく忙しそうだった。

佑介 「なんで仕事ばっかりしてるの?」って、いつもクリスチャンに言われてた(笑)。

クリスチャン 僕は日本でいう追い切りにしか乗っていなくて、追い切りで乗る馬を探して常に移動していたけど、佑介はずっと小林厩舎の手伝いを真面目にしていて。働きすぎだよ(笑)。

「フランスの調教師が苦手だった」ミルコ騎手の発言の真相

ミルコ 佑介はそういう経験も大事だっていうことをわかっているからね。それに、すぐにフランスの調教師の元では働けないし、ファーストステップとして、日本の調教師の元で働くのは間違っていないと思う。

クリスチャン 僕も少しだけ英語が話せる調教師さんに最初は助けられた。でも、その後はあえてイタリア人トレーナーとは仕事をせず、フランス人トレーナーの厩舎にずっといて、フランス語を勉強しながら仕事をしていたよ。エージェントと一緒にいろんな人とコンタクトを取って、朝の仕事とかも手伝うようになって。

佑介 すごいなぁ。そこから這い上がってきたんだもんね。

クリスチャン あるとき、GIIIに乗るチャンスをようやくもらえて、そのチャンスを生かすことができたんだ。そこからだんだん環境が変わっていった。

佑介 そのGIIIがターニングポイントになったんだね。

クリスチャン そうだね。そのGIIIを勝ってから、それまで頼まれたことのなかったトレーナーからも依頼がくるようになって。やっぱり結果がすべてなんだよね。

with 佑

▲「GIIIでチャンスを生かすことができた。そこからだんだん環境が変わっていった」

ミルコ 僕はフランスの調教師が苦手だった。いい厩舎の馬に乗っていたけど、なんか面白くなかった。

クリスチャン 指示はだいたい同じだもんね。どの枠に入ろうが、「前に馬を置いて直線までリラックスさせて、直線に入ったらゴー!」。

ミルコ 位置取りの指示も、決まって2、3番手。

クリスチャン そうそう(笑)。

佑介 オーダー自体は単純なんだよね。その通りには乗れないんだけど。

ミルコ そう! 単純だけどできない。

クリスチャン あるトレーナーなんて、枠が20番なのに「2、3番手に行け」と。「その位置を取るには、他の馬を飛び越えるしかないよ」って言ったんだけど、「大丈夫、行ける行ける」って(笑)。結局、行かなかったら、レースのあとにすごく文句を言われた。

ミルコ そうなんだよね。指示通りに乗れないとすごく怒られる。だから面白くない。

佑介 怒られたところで、無理なものは無理だもんね(苦笑)。

ミルコ それに、自分で失敗したときはすぐにわかるから、“次は違う乗り方をしよう”と思うけど、フランスではすぐにクビだもんね。で、乗り替わった騎手が失敗したら、またすぐにクビ。そういうのって意味がないよね。

クリスチャン ヨーロッパに比べたら、日本はすごく優しい。失敗したとしても、もう一度チャンスをくれたりするし。レースにしても自分で考えることができるし、これほど自由度が高いのは日本だけだよ。

佑介 同じヨーロッパでも、イタリアはどうなの?

ミルコ イタリアもけっこう指示は細かいよ。でも、トップジョッキーになってしまったら、トレーナーの言うことは聞かなくなるけどね(笑)。

(文中敬称略、次回へつづく)

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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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