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JRAを中心とした引退馬のキャリア支援組織設立へ 美浦・鈴木伸尋調教師に聞く(3)

2018年03月29日(木) 18:01

第二のストーリー

▲ニシノブルームーンを管理した鈴木伸尋師が競走馬に対する情熱を語る(撮影:下野雄規)


「1番力を入れたい」ホースセラピーとの連携


――競走馬引退後のセカンドキャリアとして、乗馬への転用ということでしたが、サードキャリアとしてホースセラピー用の馬へというお話もありましたね?

鈴木 これは1番力を入れたいと個人的にも考えていることですが、20歳近くになって大人しく穏やかになってきた馬を、セラピー用の馬として活用できないかなと。それができれば、障害者の方をはじめ、いろいろな人が馬に触れ合う機会が増えたり、全体的にも馬に対する認識が高まっていくと思いますし、社会的イメージもアップしますからね。

――ただ日本ではまだ認知度が低いように感じます。

鈴木 そうですね。日本にもセラピー用の馬を調教できる人はいますけど、まだ人数が少ないんですね。ホースセラピーに限らずですが、人材の育成と教育も組織の大きな役割にもなっていますので、例えばホースセラピー用の馬に調教をし直したり、ホースセラピーができる人材を育成するということも入ってくるようになるかと思います。

 宇都宮で行われたホースセラピーの講習会に参加して講義を受けてきたのですけど、そこには実際にホースセラピーのインストラクターが来ていて、海外のホースセラピーの方法について勉強をして、活発な意見交換がなされていました。セラピーに興味のある人もたくさんいるでしょうし、その講習会に出席していたような方々が教える立場になってくれると、セラピー自体ももっと広がりそうですよね。

――先ほど人材育成と仰っていましたが、いくつか乗馬クラブを見たり、話を聞いたりしていると、蹄叉腐爛や皮膚病をはじめとするトラブルが結構多くて、馬をしっかりと管理できる人材を育てるのも急務と感じています。乗馬クラブなり、牧場を組織で認定する時にも、しっかり馬を管理するスタッフがいるか否かも評価してほしいと個人的には思うのですが。

鈴木 そうですね、乗馬クラブや牧場のスタッフがどれくらいの技術を持っているのか、経営者がどれくらいの意識でやっているのかというのも、評価基準の中に入ってくるでしょう。ただ日本の場合、経営者の意識が高くてスタッフに技術があっても、人手不足や経営が不安定という問題もあるように思うんですよね。例えば組織からの援助によってその部分が安定してくれば、スタッフの技術も上がって、馬たちのトラブルもなくなる方向へと繋がる可能性もありますよね。

――やることはたくさんあると思いますが、馬のために是非そのあたりもよろしくお願いします。

鈴木 全部いっぺんにはできないですし、まして人の意識の改革はなかなか難しいですけど、少しずつ良くしていかなければいけないと思っています。

「馬はすべてが魅力」鈴木師が情熱を注ぐ理由


――競走馬の引退後の問題についてかなり情熱を注いでいるようにお見受けしますが、先生にとって馬の魅力は何ですか?

鈴木 動物園の獣医になりたくて大学に進学して馬術部に入ったのですが、それまで馬には全く興味がなかったんです。それが馬術部を4年で卒部になって、少しの間馬から離れていた時は、何か物足りなかく感じました。勉強もしなければいけないし、馬術部の馬に関わる仕事はすごい大変で辞めたいと思ったこともあるのですけど、馬と接しているのは楽しいし、はじめは動物園の獣医になりたかったのが、気がつけば馬の獣医になることに迷いもなくなっていましたし。

 何が魅力かと聞かれたらすべてですね。調教をするのも乗るのも、世話をするのも面白い。時には馬と喧嘩をしなければいけないこともありますけど、それがまた面白いんです。

――わかるような気がします。私も引き取った馬とはいつも喧嘩です(笑)。でもそれで馬のことを少しずつ、理解できるようになってきていると思います。

鈴木 そう、そういうことがあると、馬は何を考えているんだろうとこちらも考えますからね。なかなか答えは出ませんが、それをずっと追及して探していく…。馬とは言葉で会話はできないので、こちらが馬の気持ちを想像して察してあげなければいけないですし、その原点は馬とよく接して観察することです。接する時間が長ければ、普段の仕草と違った時にも、すぐに気づくこともできますから。

第二のストーリー

▲馬に対する理解について、「その原点は馬とよく接して観察することです」


――それは調教師の仕事にも必要な部分ですね?

鈴木 営業をして良い馬を持ってくるというのも立派な調教師の仕事ですけど、できるだけ馬と接して何を考えているのかを想像して、それを調教や管理に生かしたり、気性的に難しい馬の性格を矯正していくというのも、調教師の仕事として面白いですし、それが結果に反映されると嬉しいですね。してやったりというか。

――勝てればなおいいですけど、二桁着順だった馬が先に繋がるような競馬をしたり、掲示板に載ったりしたら、してやったりという気持ちになりそうですね?

鈴木 そうですね。結果に表れた時は嬉しくて楽しいですけど、表れなかった時も結構楽しいですね。どうして結果が出なかったのだろう、自分の思ったことが間違いだったのかなと、考えることがまた楽しいです。

 あと私は元々獣医だったので、馬の病気や怪我にとても興味があります。屈腱炎は不治の病と言われますけど、そうではなくなっていくかもしれません。

――そうなんですか?

鈴木 これまではトレセンの中で調教されていた馬が屈腱炎になって、トレセン内の競走馬診療所で診断を受け、放牧に出るという流れで、その後は牧場でリカバリーして、トレーニングを始めて、リハビリをするという過程を辿っていきます。調教師は放牧中も牧場と連絡を取ったり馬を見に行ったりと、ある程度管理をしていますので、その過程もわかっていますけど、トレセンの獣医は馬が放牧に出たらそこで切れてしまって、その先は把握はしていません。それをトレセンの獣医にも還元する。

 例えば屈腱炎と診断を受けた馬たちの牧場での状態や運動内容、症状はどう変化していったのかをトレセンの獣医にも知ってもらうということですね。さらにトレセンに戻ってきて、また診療所でエコーを撮ってどんな状態になったのか、競馬に出走してどうなったのか…。リハビリや調教、腱の状態、再発するケースやしないケースなどを共有できたら、屈腱炎も不治の病ではなくなるかもしれないですし、回復後、これまでは2、3回で再発した馬も、5回、6回と走らせることも可能になると思います。

――屈腱炎が克服できれば、競走馬としても長く走ることができますし、ひいては馬の寿命を延ばすことにも繋がりそうですね?

鈴木 はい。ここ何年か自分でも実際にやっているのですけど、再発しない馬もいます。2回屈腱炎になって、しかも2回目は両前脚に発症して、それもかなり重かった馬がいます。オーナーと相談して私が考える方法をとらせてもらって、復帰させました。メニューやローテーションを考えに考えて出走させて、トレセンでは3回目の再発はしなかったのすが、1000万クラスでは厳しかったので、地方競馬に移籍しました。地方の調教師にも脚元について引き継ぎをして、今も現役で走っていますけど、向こうで連勝してオープンでも活躍をしていて、オーナーも喜んでいます。

 お金のかかることですから、馬主の理解が得られないとできないですけど、JRAには優秀な獣医がたくさんいますし、競走馬総合研究所という研究機関もあるので、そこにフィードバックして、屈腱炎になった馬もできるだけ競馬に復帰できて、少しでも長く競走馬生活を送れるようにと実戦してるところです。

(つづく)

※次回は4月5日(木)18時公開予定です
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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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