東京ダービー当日、的場騎手がこだわったこと

2018年06月12日(火) 18:00


◆あとでレース映像を見て、すげー! と思わされたのが…

 6日に行われた東京ダービーは、NARグランプリ2歳最優秀牡馬のハセノパイロが3歳になっての初勝利でダービー制覇。見事な復活劇だった。

 一方で、ニュースヴァリューとしては的場文男騎手が東京ダービー10度目の2着ということも大きく伝えられた。

 ちょっと恥を晒しておくと、的場騎手が初騎乗となったクリスタルシルバーは能力不足と見て、無印だったワタシは“喝!”でしょう。

 検量室前に戻ってきた的場騎手は開口一番、「距離がもたないかと思っていたので、たまげた!」と。的場騎手自身ですら、勝ち負けは難しいと思っていたらしく、あわやというきわどい2着には驚いていた様子だった。

 伝えられているように、的場騎手はこれが37度目の東京ダービーの騎乗。いまだ勝利には至らず、2着は10回目。東京ダービーのタイトルを「人生の宿題」と言っているのも、9度目の2着だった2015年の東京ダービーのあとから知られるようになった。

 今回の勝ち馬との着差はクビ。1998年、ゴールドヘッドに騎乗してアトミックサンダーの2着だったときと同じ、東京ダービー2着10回のうち、最少タイの着差。まったく残念としか言いようがない。

 あとでレース映像を見て、すげー! と思わされたのが的場騎手のスタート後の進路取りだ。16頭立て12番枠から、躓きぎみのスタートだったが、すぐに立て直すと一目散に内に切れ込んでいった。ゴールまで200mのハロン棒を過ぎたところ、つまり2000mのレースではスタートして200mちょっと進んだところで早くも内ラチ沿いを確保している。

 じつはこのとき、的場騎手のクリスタルシルバーは内の3頭ほどを玉突き状に内に押していって、結果的にそのなかで最内にいたヤマノファイトが内ラチとの間で行き場を失くし、鞍上の本橋騎手が手綱を引いて位置取りを下げる場面があった。

 レース後、これで馬が掛かってしまったと、本橋騎手は的場騎手のコース取りに、怒り収まらぬという様子だった。ヤマノファイトは羽田盃を制して1番人気に支持されていただけになおさらだろう。

 たしかに行儀のいい騎乗とはいえない。他の騎手なら単なる無茶な進路取りなのだが、それでも的場騎手なら、なるほどと思うところがある。

 的場騎手は、毎日、それもレースごとに、コースのどこを通ったら馬が伸びるかという馬場の状態を確認している。よく騎手がレースの前に馬場を歩いて状態を確認するという場面は見かけることがあるが、的場騎手が馬場を歩いているところはあまり見たことがない。馬に乗っているときに確認しているのだ。

 レース前の返し馬のときはもちろんだが、レース中も、そしてレースを終えて検量室前に戻ってくるときも、自分の馬での感触だけでなく、他の馬の蹄の跡を見ることでも砂の状態を確認している、という話を以前に聞いたことがある。

 たしかに的場騎手はレース前の返し馬では最後のほうまでコースに残って、おそらく砂の状態を確認しているのだろうと思われるような場面を見かけることがある。今回の東京ダービーでもそうだった。ゴール板付近のラチ沿いのあたりで、馬場を踏みしめるように馬を歩かせていた。

東京ダービーの返し馬。砂の状態を確認している(と思われる)的場騎手

 東京ダービー当日の的場騎手は、2勝、2着4回という好成績。勝った第2レースと第6レースは3コーナー先頭でラチ沿いにピタリと付け、4コーナーから直線を向くところでは内2頭分ほどを開けたところを進み、直線半ばからは1頭分くらい内に入れて逃げ切るという、まるでリプレイを見るかのようなほとんど同じレースをしていた。

 さらに第9レース。ゴール寸前で外から伸びた矢野騎手にハナ差とらえられて2着という結果ではあったのだが、9頭立て8番枠からでもやや強引にハナを奪って、先のレースとほとんど同じところを通っていた。

 第10レースでは3番手からの追走で、常に内に達城騎手の騎乗馬がいたので3〜4コーナーではやや外を回ることになったのだが、それでも直線半ばからは同じようなところを通って2着。

 そして第11レースの東京ダービーも、ラチ沿いぴったりを回ってきて、4コーナーで逃げバテしたナムラバンザイのすぐ外に持ち出したのが、やはりラチ沿いから2頭分ほどをあけたところ。

 最終12レースでは大外16番枠からのスタートだったため、それまでよりかなり外を通らされたが、それにしても2勝、2着4回の計6レースうち、じつに5レースで、ほとんど同じところを通っているか、もしくは通ろうとしていた。

 馬群のどのあたりにつけるかではなく、コースのどのあたりを通れば馬が一番伸びるのか。そこにこだわって乗っているように見えた。内目の通りたいコースを通るには逃げるのが最善の策。それが無理なら2、3番手につけるしかない。縦のどの位置を取るかではなく、横のどの位置を通るか、なのだ。

 勝ったハセノパイロについても触れておく。

 ハセノパイロはデビューからずっと本田正重騎手が手綱をとってきたが、羽田盃で矢野貴之騎手に乗替って3着。そして東京ダービーを制した。乗替りにどういう経緯があったのかは聞いていないが、本田騎手は羽田盃では13番人気のトーセンブルに騎乗して6着だった。

 本田騎手といえば昨年、森泰斗騎手の怪我による戦線離脱でヒガシウィルウィンに代打騎乗し、見事にジャパンダートダービーを制した。ハセノパイロもヒガシウィルウィンも同じ佐藤賢二厩舎だから、なにかシビアな理由はあったのだろう。

 佐藤賢二調教師は2001年にもトーシンブリザードで東京ダービーを制していて、昨年のヒガシウィルウィンに続いて今回で3勝目。これまでの2頭、トーシンブリザード、ヒガシウィルウィンは、ともに中央馬相手のジャパンダートダービーも制している。

 さて、ハセノパイロで3度目があるかどうか。昨年のヒガシウィルウィンは、東京ダービーの勝ちタイムが2分6秒9(重)で、ジャパンダートダービーが2分5秒8(良)。ハセノパイロの東京ダービーは2分6秒7(重)だった。

 あとは中央馬との力関係次第。今週のユニコーンSで人気になるであろうルヴァンスレーヴや、伏竜Sで同馬を負かしジャパンダートダービー直行と伝えられるドンフォルティスらが有力となりそうだが、ハセノパイロも含めた評価は本番が近くなったらあらためて考えようと思う。

 そして今年の東京ダービーは、羽田盃を制したヤマノファイトが7着に沈んだことで、南関東の生え抜きが掲示板独占という結果でもあった。過去をさかのぼってみると、南関東生え抜きの馬が勝ったのは2015年のラッキープリンス以来3年ぶり。上位3着までを南関東生え抜きが独占したのは2009年(勝ち馬サイレントスタメン)以来のこと。掲示板を独占したのは、2004年にアジュディミツオーが勝ったとき以来、14年ぶりだった。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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