【石橋脩×藤岡佑介】第5回『ライアン・ムーア騎手や藤田菜七子騎手が持っている“何か”』

2018年07月18日(水) 18:02

with 佑

▲最終回のテーマは、堀厩舎の馬に多数騎乗しているライアン・ムーア騎手について

石橋騎手をゲストにお迎えしての貴重な対談も今回が最終回。最後のテーマは、石橋騎手と同じく堀厩舎の馬に多数騎乗しているライアン・ムーア騎手について。「最後の直線での馬の体の使い方が全然違う」と、石橋騎手。そこには、JRA女性騎手最多勝利記録に迫る、藤田菜七子騎手にも通じるものがあると言います。 (取材・構成:不破由妃子)


「ライアンが追うと、馬の体がなぜか伸びる」

──今回の対談では、今まで謎に包まれていた石橋さんのプライベートが垣間見えました。そして、馬に対する深い愛情が伝わってきました。

佑介 そこが脩ちゃんのジョッキーとしての一番熱い部分ですからね。だからこそ、「気迫は必ず馬に伝わる」というモットーが現実として生きてくる。普段ため込んでいるエネルギーが、馬上で爆発している感じがしますもん。

石橋 最後は気持ちだと思っているところは大きいかな。でも、それに頼りすぎるのは良くないと思うし、できれば追うときに馬上で動きたくないんだよ。直したいなとは思ってるんだけど。

佑介 それは僕も同じです。でも、NHKマイルCを勝ったあと、四位さんに「最後はフォームがバラバラになってしまいました」って話したら、「最後はそれでいいんだよ。俺も昔、小島太先生に『最後は気迫に勝る扶助はない』って言われたことがある。だからそれでいいんだ」って。そう言ってもらって、間違いじゃないのかな…と思えました。

石橋 僕もそう信じているけどね。でも、意識しないとどんどん崩れていくから。堀厩舎つながりでライアン(ムーア)と同じ馬に乗ることが多いけど、最後の直線での馬の体の使い方が全然違うんだよね。

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▲世界のトップジョッキー、ライアン・ムーア騎手(2015年マイルCS優勝時、(C)netkeiba.com)

佑介 馬自身の体の使い方が違うということですよね? もちろん、そうさせているのはジョッキーなんですけど。

石橋 そうそう。ライアンが追うと、馬の体がなぜか伸びるんだよ。あんなふうに乗れたらいいなといつも思ってる。馬の体が伸びるような動きをするためには、馬のメンタルをコントロールしなきゃいけないし、体も整えなければいけない。本当にすごいなぁと思うよ。

佑介 理論ではなく、感覚的なものなんでしょうね。本人に「どうやってるの?」って聞いたところで、人に教えられるものではないような気がする。

石橋 そうだろうね。たまに(藤田)菜七子も大外からすごい勢いで突っ込んでくることがあるけど、そのときも馬の体がすごく伸びているように見えるから、あれにも“何か”があるんだろうなと思って見てる。とはいえ今の彼女の場合、意識してそういう走りをさせているわけではないと思うんだけど、ライアンをはじめ、世界のトップジョッキーたちは、馬のそういう走り方を意識的に引き出していると思うんだよね。

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▲JRA女性騎手最多勝利記録まであと4勝の藤田菜七子騎手 (撮影:下野雄規)

佑介 そうでしょうね、きっと。

石橋 だから、彼らのそういう騎乗を見ると、自分はまだ馬を本気で走らせることができていないんだなって思うよ。

佑介 ライアンは本当にケタが違いますよね。僕らには見えない、なんかわけのわからないボタンを押しちゃうんですもん(笑)。それに、あの動かし方を変に真似したら、会得する前に自分の体が壊れそう(笑)。

石橋 かもね(笑)。でも、馬がそういう走りになるように、意図的に仕向けられるジョッキーになりたいよ。それが僕にとってのひとつの目標かな。

佑介 今の時代は厳しい反面、ジョッキーにとって幸せな時代ですよね。徐々にレベルが上がってきたところに外国人ジョッキーが乗りにくるようになって、そこからまた急激に競馬の質が高くなっていると思うから。いっぽうで、そういう状況を良しとするか否かで個人の成長度合いは変わってくる。少なくとも僕は、すごく幸せな環境だなと思ってますけどね。

石橋 そうだね。僕も捉え方ひとつだと思ってる。

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▲「今の時代は厳しさ反面、すごく幸せな環境だなと思ってます」と佑介騎手

石橋騎手のジョッキーとしての“欲”

──おふたりは時代の変化を肯定的に捉えたからこそ、今こうして波がきたのでしょうね。“勝つためのポジショニング”を追求してそれを結果につなげているあたり、飛躍のきっかけは似ているような気がします。

佑介 トップジョッキーにぶつかっていって跳ね返されて、そこで何が足りないのかを考え続けた結果、そういう競馬をしなければならないと僕は感じました。GIにしてもそうです。85回負け続けたからこそわかったこともありますから。もちろん、勝つために競馬に乗っているけど、勝つときはすべてが上手くいくことのほうが多いから、負けたときのほうが勉強になるんですよね。そういう意味では、同じ負けるにしても、どういう負け方をするかが大事。今はより強くそう思いますね。

石橋 誰にぶつかっていって、どういう負け方をするか。

佑介 そうですね。出し切って跳ね返されたとしても、それはそれで勉強です。でも、そういう学びって、レベルの高いなかで戦ってこそだと思うんです。だから、今の時代は幸せだなって。さっき、ライアンのような乗り方がひとつの目標だと言ってましたが、リーディングとか勝ち星とか、具体的な数字をモチベーションにすることはありますか?

石橋 ん〜、そういうのも大事なことなんだろうけど…。僕は正直、そういう数字よりも、与えてもらった仕事に対して全力で取り組みたいという気持ちが強い。もちろん、大きいレースを勝ちたいという思いは常にあるけどね。佑介は?

佑介 僕は勝ち星もリーディング順位も気にしますよ。それはなぜかというと、オーナーや調教師が「この馬をGIに連れて行きたい」と思うような馬を、最初から頼まれるようなジョッキーになりたいから。そのためには、目に見える“数字”という結果も大事だと思いますからね。

石橋 なるほどねぇ。そういう数字の捉え方もあるんだ。

佑介 今は一戦一戦が勝負で、次があるとは限らないのが現実ですが、競馬って本当はそうじゃないと僕は思っているから。自分がやりたいことをやるために、それを許される地位がほしい。信用を得て、「お前がそう思うならそうすればいい」って言ってもらえる立場になってこそだと思いますからね。

──石橋さんのジョッキーとしての“欲”はどこに向いていますか?

石橋 それはやっぱり、馬をもっと理解したいということ。そこに欲はありますね。ここまで大きなケガをせずに続けてこられたのは、間違いなく馬のおかげですから。あとは、欲というより目標ですけど、お世話になっている堀厩舎の馬で大きいレースを勝ちたい。それは今日改めて強く思いましたね。でも、普段はあまり注目されることなく、ひっそりと仕事に集中していたい…(苦笑)。

佑介 そういえば、ダービー当日のジョッキー紹介も、後ろで手を組んで下を向いたまま、お客さんの前に出て行ったそうですね(笑)。

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▲ダービー当日のジョッキー紹介でのエピソードを暴かれて…苦笑いの石橋騎手

石橋 うん。下を向いて、ずっと自分の前足を見てた…。

佑介 前足って! 馬じゃないんですから(笑)。

石橋 あ、間違えた、つま先だった(苦笑)。ああいう目立つ舞台で人前に出るのは苦手なんだよねぇ。

佑介 それはそれで脩ちゃんらしいですけどね。今日は長い時間、本当にありがとうございました!

(文中敬称略、了)

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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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