コンサイナーと生産牧場

2005年07月26日(火) 18:31

 7月18、19日の2日間にわたり静内で開催された「北海道市場・セレクションセール」は、当歳と1歳合わせての総売上げが20億2430万余を記録し、一応の結果を残したとは言える。ただし、これはあくまで上場数の増加(両方で前年より81頭増)による売却頭数増に支えられている面が大きく、まだ日高の市場はたくさんの課題を残している。「セレクションは確かに期待していた程度の数字を残したかも知れないが、問題はこれからの8月定期市場と10月のオータムセールだ。選ばれた馬ではない普通の馬が大挙して上場されるこれからの市場こそ、我々にとってもっとも重要な意味を持つ」と考える生産者は多い。

 その8月定期市場は今年、日程が大幅に変更され、初日が8月22日に開催されることになった。セレクションセールから1ヶ月程度間隔が空けられたことで、生産者から上場馬を預かり馴致・調教を行うコンサイナーは一様にこの日程変更を歓迎している。昨年までは、セレクションから8月定期市場までわずか半月程度の期間しかなく、人員と馬房のやりくりができないと悲鳴を上げるコンサイナーが少なくなかった。最低でも市場に上場する1歳馬を仕上げるために2ヶ月はかかるといわれることから、7月と8月の市場日程はできるだけ空いていた方が都合は良いのである。

 さて、そのコンサイナーは、今年から登録制になり、早くも今年3月10日発行の「JBBA・NEWS」3月号(日本軽種馬協会発行)には「馴致を行う育成業者の仮登録をした牧場」として全国で112牧場が掲載されている。(その後追加でまた牧場数は増加した)

 なぜ「登録制」になったかというと、2000年より始まった「市場上場馬馴致促進事業」として、1歳馬を市場に上場するためにコンサイナーに60日以上預託した場合、その預託料の一部(60日以上で最大10万円)を日本軽種馬協会が販売申込者に対し助成してきたことによる。その際に、コンサイナーの認定があいまいだったため、中には実態の伴わない業者の存在も取り沙汰され、一部に不正行為が行われてきたことを指摘する生産者もいる。「預けたことにして書類を偽造し、助成金を受け取る」という単純な方法だが、それをチェックする機能が働いていなかったのである。

 この「市場上場馬馴致促進事業」は一応2004年末をもって終了となったが、この事業の継続を要望する生産者が多いため、やや事業内容を変更して、今年から3年間さらに継続されることになった。昨年までの5年間でこの事業を活用し、市場に上場された1歳馬は3400頭にも上るという。そして、格段に上場馬の馴致と販売するための仕上げ方は、この5年間で向上した。

 とはいえ、コンサイナーにとっては、基本預託料(だいたい1日5000円程度)だけでは「旨み」がなく、「仕上げて予定価格より高く販売できた際の歩合金」で辻褄を合わせることになる。その比率は3%〜5%程度が一般的で、例えば1000万円で市場にて落札された上場馬の生産者(所有者)から受け取るのは預託料の他に50万円となるわけである。

 もちろん、この出費を惜しむ生産者は、自身で上場馬を仕上げ、当日、市場に連れて行くことになるのだが、総じて日高(に限らないか?)は零細生産者ほど高齢化と後継者難が進行しており、元気の余っているような1歳の牡馬を思い通りに仕上げることが体力的にも技術的にも難しい牧場が増えている。後継者がたとえいなくとも、以前ならば、市場の際に臨時に隣の牧場の息子に手伝ってもらい、生産馬を市場に連れて行くなどという形が一般的だったが、今ではそれを頼める「隣の息子」も激減してしまった。

 いわばコンサイナーの存在は、このような生産地での根強い「需要」に支えられている。結果的に一種の分業制が成立した、と言えようか。そんなことから、生産頭数は今後おそらく減り続けることになるだろうが、コンサイナーの需要はしばらく安泰だろうと思われる。ただし、こうした経費は、助成金があるとはいえ、あくまで生産者の負担であることは言うまでもない。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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