生産地の衰亡を防ぐためにも岐路に立つ人材育成

2018年11月29日(木) 18:00

生産地便り

研修生訓練の様子

BTC技術者養成研修の志願者が急減

 11月下旬のある日、久しぶりにBTC軽種馬育成調教技術者養成研修の現場を見学してきた。現在、ここで研修を行っているのは第36期生16名。今春入講時には22名在籍していたが、その後6名が退学し、この人数になった。男女比は半々である。

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研修生の男女比は半々

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研修風景

 退学者が出てしまうのは今期に限ったことではないが、それにしてもやや多い。ただ、こうなるであろうことは春の段階である程度予測はできていた。というのは、今回の36期生が初めて、半々の男女比でスタートしていたこと。そして、中には、体格的、体力的に1年間の騎乗訓練に耐えて行くのがやや厳しいのではないかと思われる研修生が一定数いたこと、などがその理由である。

 しかし、実際に研修がスタートしてみると、中途退学者は男女3名ずつで、必ずしもリタイアするのが体力的に劣る女子ばかりではないことが窺える。

 それどころか、今回訪れてみて、「意外に女子は頑張っているではないか」との思いを強くした。BTC研修所の敷地内にある覆馬場で、訓練馬に騎乗し、教官から細かな指示を受けながら、技術の向上に取り組む彼らを見ていると、それぞれ騎乗レベルの違いはあるものの、何とかこのまま来春までこれ以上1人も欠けることなく修了式まで頑張って欲しいと願わずにはいられなかった。

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女子の頑張りが感じられる研修所

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1年間の騎乗訓練に耐えていくのは大変である

 今や、このBTC育成調教技術者養成研修は、JBBA生産育成技術者研修とともに、生産地における貴重な人材育成機関である。しかし、ここにきてやや風向きが変化してきており、ついに今年、来期37期生の応募者が急減する事態となった。

 昨年までは、定員に対し志願者の方が多く、選考試験を経て入講研修生を選抜する流れを維持できていたのが、ついにこの秋の第一次試験に応募してきたのが12名にとどまり、急きょ二次募集で補充する必要が生じてきたのである。

「1年間で育成の現場に即戦力として通用する騎乗技術者を育てる」ことを目的に発足したBTC育成調教技術者養成研修は、これまで幾多の人材を業界に送り出してきた。中には独立し育成牧場の経営者になったり、中央競馬の厩務員として活躍する人材も数多く出ている。乗馬未経験の若者がこの業界に参入する際の恰好のステップとして十二分に存在感を示してきた歴史がある。

 にもかかわらず、ここにきて急激とも言える状況の変化は、いったいどう捉えるべきなのか。

 因みに、我が国における18歳人口が、このところ毎年微減し続けているのは確かだ。加えて、業界を問わず人手不足が深刻化しており、とりわけ3K現場(農林水産業や建設業、サービス業など)においてより深刻と言われている。

 その結果、就職事情は劇的に改善しており、高校、大学などの新卒者はかなりの「売り手市場」になってきている。どの企業も人材確保に躍起になっているのが昨今の状況である。

 そんな状況にあって、3Kの現場である馬業界、とりわけ生産地における生産や育成の現場を志す若者の絶対数が年々減少し続けているのは確かで、この問題は根が深く、劇的な改善方法がないだけにひじょうに切実だ。今は不足する騎乗技術者を外国人に頼っているが、それとていずれ限界が来るだろう。

 BTCのある浦河町の場合、今の段階で在留する外国人の内訳はインド人が124名、フィリピン人43名、マレーシア人14名といったところが多数派で、これらのほとんどが騎乗技術者として来日している人々と見なされる。

 とりわけ激増しているのがインド人で、2017年3月の時点ではわずか31名に過ぎなかったのが、この1年8ヶ月の間にちょうど4倍に増えたことになる。

 だが、いかに人口の多いインドとはいえ騎乗技術者が無限にいるわけでもなく、いずれ人材は払底する。育成業務の主要な部分は知識や経験のある日本人が担い、それで不足する部分を外国人騎乗者に頼る、というのが理想だが、現実的には、騎乗者の大半がインド人で占められている育成牧場も少なくない。

 どうすれば日本人の若者に参入してもらえるか。一朝一夕に解決できる問題ではないが、これをクリアできないと生産地は衰亡する一方である。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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