八戸市場

2005年08月16日(火) 19:21

 8月10日、青森の「八戸市場」が開催された。当歳馬8頭、1歳馬90頭が上場され、当歳の落札はなかったものの、1歳馬は27頭が落札。売却率はちょうど30%となり、昨年と比較すると大幅に数字を伸ばした。

 昨年1歳馬は126頭が上場され、19頭しか落札がなく、売却率は15.1%と低迷した。そうしたことからか、前年と比較すると今年は上場頭数がかなり少なくなったわけだが、逆に落札頭数は8頭増となった。牡35頭、牝55頭の上場で、牡16頭、牝11頭が売却。総額9125万5500円(対前年比17.3%増)。

 ただし、落札された馬の平均価格は337万9833円と、こちらはやや低迷し、同じく対前年比で16.8%減。全体的に1歳馬の価格が安くなってきている傾向がいっそう顕著になったということか。

 とはいえ、相次ぐ地方競馬の廃止など、生産を取り巻く環境が悪化している中で、ここまで成績を持ち直したことは賞賛に値する。まずは、主催者の「営業努力」の賜物と言って差し支えあるまい。

 青森の市場は、以前にはほとんどが地元東北の生産馬のみで開催されていた。しかし、八戸市場の相対的な地盤沈下に危機感を持った主催者が一転して積極的に営業活動を開始。手始めに、日高の生産馬を「誘致」してくる作戦に打って出た。

 そのあたりについて日本軽種馬協会東北支部の松橋康彦参事は次のように語る。「平成15年から、日高の生産者の方々にも青森に足を運んでいただくようになりました。だいたいそれまでは青森の場合、JRA抽選馬(現・育成馬)を5頭程度は毎年買っていただいていたのですが、この年は、5頭中4頭が日高から遠征してきた馬で占められるようになってしまって、ずいぶん地元の生産者からお叱りを受けた(笑)ものでした。なぜそうなったか、というと、やはりこれは馬の作りも引く人の服装も血統も馴致も、何もかもが地元の馬とは違っていたからなんです。」

 折から、日高の市場では、生産者から市場上場馬の馴致・調教を業とする専門のコンサイナーの存在が認知されるようになり、「仕上げる技術」が大きく飛躍し始めた時期である。

 実際に私もこの平成15年に青森へ遠征した日高のコンサイナーの一人から「お前ら、俺たちの金を全部持って帰る気か?と青森の生産者から嫌味を言われた」というようなエピソードを聞いたことがある。

 地元産馬がどうしても見劣りする要因として松橋氏は次の点を挙げる。「青森の場合、まず種牡馬が限られてしまうので、例えば、カツラノハイセイコなんていう種牡馬がいると、その産駒ばかりがどっと上場されてきて、多様性に欠ける面は否定できませんでした。それと、もう一つは、複合経営で兼業農家が多いものですから、なかなか馬に手をかけられないでいる。葉タバコ、水田などとの兼業だと、日高の馬のレベルまで生産馬を育て切れないんですね、実際問題として。」

 かくして、日高からの出張組が高額取引馬の上位を占めるようになったわけだが、その傾向は今年も続いており、全体で30%の売却率にあって日高の馬は半分以上が落札されている(20頭中11頭)。しかも、高額落札馬ベストスリーが、いずれも日高の馬であった。

 再び、松橋氏の話。「私たち市場主催者としては、まず良い馬をできるだけ揃えて購買者に買っていただく。これが基本です。ですから、今後も積極的に北海道から青森にはお越しいただきたいと思っています。それと、購買者の方々に対する積極的な営業も欠かせません。とにかく馬もお客さんも、来ていただかなければ始まりませんから。」

 そして、「平成15年以来、やはり青森でも若手生産者たちを中心に何とか北海道に追いつこうと努力し始めています。こうした傾向は歓迎すべきです。やはり、農機具メーカーからもらったような帽子と腰に手ぬぐいをぶら下げるスタイルではまずいという意識が浸透しなければ…」と続けた。

 ところで主催者は八戸市場へ足を運ぶ購買者のために、「最寄駅から市場までのタクシー代を負担する」ことと、「宿泊代の特割サービス」を実施しており、いずれも好評を博しているという。あとは徹底的な「電話呼びかけ作戦」なのだそうだ。日高の市場でも見習わなければならぬ点があるのではないか。

 いよいよ来る22日より、静内では5日間にわたって「北海道サマーセール」が開催される。1300頭の1歳馬が上場予定で、次週はその模様をお伝えしたいと思う。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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