サマーセール総決算

2005年08月30日(火) 20:26

 8月22日に始まったサマーセールは26日に全日程を終え、予想はしていたものの、やはりかなり厳しい結果となった。

 5日間で計1156頭のサラブレッドが上場され、309頭が落札。売却率は26.73%。売上げ総額16億8782万2500円。上場頭数で対前年比125頭増、落札頭数15頭増、売上げ総額で前年比3155万2500円増。しかし、平均価格は17万1363円の減少である。

 何より上場頭数の多さが印象に残った。それだけ売れ残っている馬が多い、ということなのだが、これから先は10月に開催される「オータムセール」を残すのみ。今回主取りに終わった大多数の1歳馬が大挙してまた再び10月に上場されることになるだろう。10月はいったいどのくらいの申し込み頭数になるものやら。

 ところでこの市場を振り返って、HBA日高軽種馬農協組合長の荒木正博氏が次のようなコメントを残している。「16億円はほぼ計画通りの数字。年間目標額まであと少し」と言った上で、上場頭数の多さに関しては「地方競馬の廃止などでサークル全体の需要が減っているのに生産頭数がそれほど変わらないのだから馬が余るのは仕方がない。」(「週刊・競馬ブック」9月4日号、111P)。

 …確かに、仰る通りではある。需要の減少は確実であるにも拘わらず、依然として日高のサラブレッド生産頭数は、さほど減少していない。来年の1歳市場は、果たしてどんなことになるものか、今から非常に気がかりだ。

 サマーセールを通じて、私なりに感じたことがいくつかある。まず、圧倒的な買い手市場に傾斜してしまっているため、アピールポイントに乏しい馬は、どうやっても売れない、声がかからない、という事実である。やや乱暴に言えば、サラブレッドは、血統、馬体、動き、この三点で評価を下される。この要素が揃っていればいるほど、落札される可能性が高まる。しかし、残念ながら、いずれも平均値以下の素材が目立つセールだった印象が強い。

 そのことに関連しているが、前述の三要素が揃った馬は、俄然、注目度が高まり、多くのバイヤーたちが争奪戦を演じて価格も高くなったという点も指摘できる。5日間で落札価格が2000万円を超えた1歳馬が4頭、1500万円を超えた馬が6頭、出現した。1000万円から1500万円未満の価格帯でも24頭いる。これらの多くは、激しい競り合いの末に落札された馬である。こういう素材を上場させることが、今後の生産のあり方を示唆しているとは思う。

 ただし、良血の繁殖牝馬に優秀な種牡馬を配合し、管理を万全にして出産させるのが理想的とはいえ、それには多大な投資が必要になる。マーケットブリーダーとしては、その道を追求し続けなければならないわけだが、自己資金を豊富に持つ生産者はほとんどおらず、多くは借入金によって、投資を行ってきた長い歴史がある。そして、いつの時代でも「勝ち組」になるのはほんの一握りなのだ。

 近年は別に珍しくなくなった風景だが、一軒の牧場から、ズラリと4頭も5頭もの生産馬がサマーセールに上場されるものの、全て主取りに終わり、落胆の色を隠せない生産者の姿が今年も目に付いた。おそらく、「販売しなければならない馬」を全て連れて来たのだろうと推測されるが、この厳しい現実に直面すれば、どうしても「今後どうすべきか」ということを考えてしまうに違いない。生産牧場を続けるべきか否か、という根源的な自問自答の末に、今年はさらに廃業もしくは転業する生産者が続出するのではなかろうか。

 ある複合経営の生産者はこう言う。「専業でサラブレッド生産だけに依存している人はこの先、大変だと思う。私のように、まだ他に収入の道がいくばくかでもあれば、たとえサマーセールで上場馬が売れなくても、まあ諦めもつくし、気持ちを切り替えることができる。でも、生産一本でやっている人が、ほとんど上場馬を売りさばけずに連れて帰ることになったら、やはりショックは大きい。それで食べて行くしかないのに、食べられないんだから」。

 いつぞや流行した言葉に「自己責任」というのがある。牧場を生かすも殺すも、言ってみれば「自己責任」である。良い馬は売れて、そうではない馬が売れ残る。こうした傾向が、ますます顕著になってきたのは間違いなかろう。「牡が生まれたら、何とかなるのではないか」といった単純な動機で安易に種牡馬を選定し配合しても、もう牡だから、という理由だけでサラブレッドが売れる時代ではなくなったのだ。「最小限の投資で最大の効果を上げる」ような生産は、夢物語になってしまったのかも知れない。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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