“女性騎手”でなく“騎手”として評価される藤田菜七子

2019年02月12日(火) 18:00

地方競馬での騎乗数の多い藤田菜七子騎手

 今週行われるフェブラリーSでは、コパノキッキングに騎乗予定となっている藤田菜七子騎手についての話題で盛り上がるのだろう。騎乗が発表されたあと、オーナーのドクター・コパさんは「驚くほど多くの取材依頼が来ている」ということをSNSで書いていたことでも、その注目度の高さがうかがえる。

 藤田騎手はこれまでは重賞には10回騎乗して8着が最高という成績。コパノキッキングには、カペラSで騎乗依頼があったものの、ブラゾンドゥリス(16着)に先約があって実現せず、もし騎乗していたらどうだっただろう。

 デビュー当初こそ“女性騎手”ということで注目されたが、昨年あたりからは女性ということではなく、普通に騎手として評価されるようになったように思える。JRAでの勝利数を見ると、デビューした2016年が6勝、2017年が14勝、そして2018年が27勝と、3年目までは、ほぼ倍、倍と数字を伸ばし、今年は9日の小倉で挙げた勝利が3勝目で、JRA通算50勝とした。

 藤田騎手と同じ2016年デビュー組は、菊沢一樹騎手、木幡巧也騎手、荻野極騎手、坂井瑠星騎手、森裕太朗騎手の6名で、2月9日現在でもっと通算勝利数の少ない菊沢騎手でも47勝、もっとも多い荻野騎手が101勝という成績(いずれもJRAのみ)。デビューしてほぼ丸3年ということでは、平均的にレベルが高い世代といえそうだ。この数字を見ても、藤田騎手が“女性”という括りではなく、騎手として普通に活躍しているレベルであることがわかる。

 さて、このコラムでなぜ藤田菜七子騎手を取り上げたかといえば、藤田騎手は地方競馬での騎乗が異常に多いのだ。初騎乗がJRAの競馬場ではなく川崎だったということもあるが、2月9日現在、地方では204戦に騎乗して20勝という成績を残している。

 藤田騎手の場合は条件交流などで地方に遠征した際、地元馬への騎乗依頼も少なくないこともあり、地方での204戦のうち147戦が地方所属馬への騎乗となっている。そして驚くことに、現在開催が行われている地方(平地)の13競馬場のうち、すでに11場で騎乗し、あと騎乗したことがないのは、水沢、笠松だけとなっている。

 藤田騎手が倍、倍と勝利数を伸ばしてきたのは、この地方競馬での騎乗数の多さとも無関係ではないだろう。地方の競馬場は、中央競馬にはない小回りコースで、レースの流れや展開もさまざまに異なる。近年、JRAからデビューした騎手の中には、早いうちから海外に長期滞在して経験を積むという騎手もめずらしくないが、異なるスタイルの競馬を経験するという意味では、海外に行くのと同じように、地方競馬で騎乗するということも大きな経験になっているはずだ。

 ここ10年ほどで、地方競馬の若手騎手が、所属場以外の地区で期間限定騎乗するのもめずらしいことではなくなった。また近年では若手騎手に限らず、中堅からリーディング上位の騎手の期間限定騎乗ということも増えている。それで腕を上げ、地元に戻って成績を伸ばすという騎手もめずらしくない。若手にとっては、単に騎乗機会が増えるということだけでも大きな経験となるのだろう。

 コパノキッキングの話に戻れば、オーナーのドクター・コパさん(小林祥晃氏)は、これまでにも所有馬の多くに藤田菜七子騎手を起用しているのは、おそらくご存知のとおり。コパさんは、ご自身が評価している騎手には「いろいろな経験をさせてやりたい」ということを常々話していて、以前にこのコラムでも触れたと思うが、船橋の森泰斗騎手をラブミーチャンやコパノリッキーに起用したのもそういうこと。

 藤田騎手に対しても、GIが狙える馬の背中を感じてもらい、そして実際にGIレースを経験させたいという思いがあるのだろう。同時に、「競馬全体を盛り上げたい」という思いの実現にもつながる。

 フェブラリーSのパドックに藤田菜七子騎手が登場したときにはどんな状況になるのか。おそらくこれまでにはなかったような盛り上がりになるのではないか。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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