競走中止から馬名を変え乗り馬へ 女性オーナーがもたらしたトウケイゴールドの馬生(1)

2019年04月09日(火) 18:00

第二のストーリー

▲競走馬時代はトウケイゴールド、乗り馬の今はゴールデングローブの名で馬生を送る(提供:S.Iさん)

ゴールドシップに惹かれ、今では馬中心の生活に

 馬券が楽しみな人、馬が好きな人、一口馬主ライフを楽しむ人など、競馬ファンにも様々なタイプの人がいる。だがどのようなタイプのファンであっても、重賞勝ち馬に限らず、誰しも気になる馬が1頭はいるのではないだろうか。そしてその馬が引退した後に、密かに無事を願っていたりするのではないだろうか。今回紹介するトウケイゴールドという馬もそんな1頭かもしれない。

 トウケイゴールドは、重賞4勝のトイケイヘイローの1つ下の全弟で、京都ジャンプS(JGIII)での落馬競走中止を最後に競走馬登録を抹消されている。トウケイゴールドの現在のオーナーは神奈川県在住のS.Iさんという女性で、ある時期まで彼女の人生に馬は全く存在していなかったのが、気がつけば馬はなくてはならない存在となり、今は仕事と馬が中心の毎日を送っている。

 Sさんが馬に興味を持ったのは、競馬がきっかけだった。

「お友達が携帯で馬券を買っていたので、何だろうと思って教えてもらいました。その友人と一緒に府中の競馬場に行ったりして競馬観戦をしているうちに、今度は馬に乗ってみたいなになったんです(笑)」

 1番好きになった競走馬は、ゴールドシップだった。

「あっスタート出た! 良かったみたいな(笑)、ヤンチャ坊主なところが良かったです。可愛いですよね」

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▲ヤンチャなゴールドシップに魅了され乗馬クラブに入会 これが後にトウケイゴールドとの出会いへ(撮影:下野雄規)

 札幌記念(2014年・2着)に出走したゴールドシップを追いかけて、札幌競馬場にも遠征し、その際にノーザンホースパークにも足を運んだ。

「丸馬場に1頭だけお馬さんがポツンといて、女性がその馬に触っていたんです。えっ? 馬って触って平気なの? と近づいてみたら、とても甘えん坊のお馬さんでした。馬に直接触れ合ったのは初めてでした。引き馬で馬にも乗って、おっ、これは楽しいなと思いました」

 乗りたいという気持ちがさらに増長して、北海道から戻ってくると乗馬クラブ探しが始まった。

「近くに何軒かあって見学に行きました。乗ったところもありますし、すいませーんって突然行ったら誰もいなくて、勝手に入っていいのかなというのもあって、外から見ただけのクラブもありました。ある大手のクラブがわりと値段が手頃だったので、そこに入会を決めました」

 このクラブヘの入会が、のちの愛馬トウケイゴールドとの出会いへと繋がった。

 一方トウケイゴールドは、北海道日高郡新ひだか町の中村和夫さんの牧場で2010年4月13日に生まれている。父ゴールドヘイロー、母ダンスクィーン、その父がミルジョージという血統だ。母ダンスクィーンは、地方競馬で14勝を挙げて交流重賞のクイーン賞2着、エンプレス杯で3着と活躍を見せたクインオブクインの半姉にあたる。
 
 1歳上の全兄トイケイヘイローは、2011年7月デビューして新馬戦で勝利を収め、5戦目の朝日杯FS(GI)で4着と素質の片鱗をのぞかせる。花開いたのは4歳になった2013年。オープンに昇級初戦のダービー卿チャレンジTで初重賞制覇すると、京王杯SC(GII)8着を挟んで鳴尾記念(GIII)、函館記念(GIII)、札幌記念(GII)と重賞3連勝を飾った。その年の12月には香港に遠征し、香港Cで2着とここでも好走。

 翌年はドバイに飛んで、ドバイデューティフリー(GI・7着)、シンガポールに舞台を移してシンガポール航空インターナショナルC(GI)で4着と海外遠征も積極的にこなした。だが札幌記念以降は勝ち星には恵まれず、2015年のシリウスS(GIII)8着で右前浅屈腱炎を発症して引退。現在は北海道新ひだか町のアロースタッドで種牡馬として繋養されている。

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▲全兄のトウケイヘイローは国内外の垣根を越えて活躍(撮影:高橋正和)

 またトウケイゴールドの母系を辿ると、曾祖母に社台グループによってアメリカから輸入されたファンシミンの名前がある。その産駒のファンシーダイナやシャダイマインが繁殖牝馬として多くの活躍馬を輩出していくこととなる。例えばファンシーダイナからはオールカマーなど重賞5勝のダイナフェアリー。ダイナフェアリーからはセントライト記念や目黒記念など重賞4勝のローゼンカバリーが出ており、最近では昨年のチャンピオンズC(GI)を制したルヴァンスレーヴ(牡4・現役)がこの母系の出身馬だ。

 シャダイマインは新潟記念(GIII)や牝馬東京タイムズ杯(GIII)と重賞2勝のダイナマインや七夕賞(GIII)など優勝のダイナシュートという活躍馬を送り出し、さらには桜花賞、NHKマイルとGI2勝のラインクラフト、高松宮記念優勝のアドマイヤマックス、菊花賞馬のソングオブウインドらのGIホースがこの牝系から出ている。このように日本で裾野を広げたファンシミン系は、今なお繁栄をし続けている血脈でもある。

 その活力ある牝系出身のトウケイゴールドは、2013年3月に兄と同じ栗東の清水久詞厩舎から新馬戦でデビューし、9着となった。その後5戦して勝ち星を挙げられず園田競馬に移籍をすると、その地で3勝を挙げて中央に戻ってきた。500万クラスでは9戦して2着、3着と好走もあったが、2014年12月に平地から障害に転向。5戦目に初勝利した後、障害オープン3戦目に重賞の京都ジャンプS(JGIII)に臨んだ。第1障害で鼻先が地面につくほど躓いたが、うまく立て直しながら順位を上げて3番手でレースを進めた。しかし、これを飛び越えればあと残りの障害4つところで着地に失敗して落馬。残念ながら競走中止。結果的にこれが引退レースとなったのだった。

 競走馬登録を抹消されたトウケイゴールドには、乗馬という第二の馬生が用意されていた。馬名もトウケイゴールドからゴールデングローブに変更となっていた。乗馬となって数年を経たゴールデングローブは、乗馬の魅力に嵌ったS.Iさんと出会うこととなる。

(つづく)

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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