ローズキングダムも暮らすヴェルサイユファーム(2)種牡馬引退、第3の馬生へ―薔薇で繋がる不思議な縁

2019年05月07日(火) 18:00

第二のストーリー

▲夕陽を見つめるローズキングダム(提供:ヴェルサイユファーム)

引退馬が安心して暮らせるように…クラウドファンディングに挑戦

 本場から直線距離にして3キロほど離れた場所に、ヴェルサイユファームは引退馬を受け入れる牧場を新たに構えた。ローズキングダムやメイショウドトウなど、タイキシャトル以外の引退馬たちが既に移動を終えている。種牡馬経験のあるローズキングダムとメイショウドトウには専用の放牧地があり、他の十数頭は奥の広い放牧地に放たれている。

 このゴールデンウイークには、ローズキングダム、メイショウドトウの2頭に会いにたくさんの人が訪れた。タイキシャトルは、専用放牧地の柵を作っている途中のため、引っ越しできずに、まだ本場暮らし。ゴールデンウイークにはファンとの対面は叶わなかったものの、もう少ししたらシャトルも引退馬用の牧場に移って、ファンの前にお目見えすることになるだろう。

 だがこの引退馬用の牧場は、地震や台風の爪痕により、修繕を必要とする箇所がかなり出てきて、4月10日から目標額1000万円のクラウドファンディングが始まった。引退馬活動に力を注いでいるJRAの鈴木伸尋調教師や、ローズキングダムを管理していた橋口弘次郎元調教師などが応援メッセージを寄せている。集まった支援は、今のところ4718000円(5月7日、15時30分現在)。達成率は残り43日で47%となっている。何とかクラウドファンディングを成立させて、引退馬たちが安心安全に過ごせる場所を作りたい。その強い気持ちのもと、ヴェルサイユファームの岩崎崇文さんは日々、真剣に馬たちと向き合っている。

苦難を乗り越え第3の馬生へ

 昨年ヴェルサイユファームに入厩したローズキングダムは、間もなく満12歳(2007年5月10日生まれ)になる。2009年に朝日杯FS(GI)を制して2歳チャンピオンとなり、3歳時は皐月賞(GI)4着、ダービー(GI)2着、菊花賞(GI)2着とクラシックには手が届かなかったが、ブエナビスタの降着でジャパンC(GI)を繰り上がりで優勝している。6歳まで現役を続けたが、4歳で京都大賞典を制してからは勝ち星に恵まれず、25戦6勝の成績で競走馬登録を抹消された。

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▲京都大賞典優勝時(C)netkeiba.com

 引退後は北海道日高町のブリーダーズスタリオンステーションで種牡馬生活を送っていたが、2018年に馬房内で頭を強く打ったことで舌骨骨折という怪我に見舞われ、その影響で種牡馬生活が続けられなくなってしまった。

「引退馬も扱っていくという話をブリーダーズスタリオンステーションの秋山さんにしていたんですよね。それを覚えてくださったようで、声をかけていただきました。スタリオンから近いというのもありましたし、ウチなら安心できるからというのもあったようです」

 こうして昨年10月19日に、ローズキングダムはヴェルサイユファームへとやって来た。フランスから輸入されたローザネイから繋がる母系は、ロゼカラーやロサード、ローズバドなど薔薇にちなんだ馬名を持つ活躍馬を数多く輩出し、薔薇一族と呼ばれている。ローズキングダムもその名の通り薔薇一族の出身だ。一方、代表の岩崎美由紀さんが宝塚歌劇団出身ということで「ヴェルサイユの薔薇」にちなんだ名称のヴェルサイユファームにローズキングダムが繋養されたというのも、不思議な縁を感じる。

「折れたのは神経がたくさん通っている箇所でした。骨折すると骨が肥大化して神経を圧迫してしまい、腰フラと半身麻痺のようになってしまって、歩くのもフラフラしていました」

 昨年10月29日のFacebookには、肥大した舌骨の内視鏡の写真がアップされている。

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▲舌骨の内視鏡を確認する様子(提供:ヴェルサイユファーム)

 

「フラフラしていたのもありましたし、横になって寝ることもできていなかったですね。平衡感覚も多分良くなかったと思うので、いろいろな所に顔をぶつけたりもして、常に傷だらけでした。最初は怖がっているのか警戒しているのか、馬着も着せられなかったんです。何をするにしてもビクビクして怖いという感じで、ブラシもかけられませんでした」

 獣医からは「治るかどうかはわからないけど、手術をすればこれ以上は悪くはならない」という説明を受け、手術を行った。手術は無事成功して、フラフラしていた歩様も徐々に良くなっていった。

「来た当初は唇もだらーんと緩んでいたのですが、最近は唇も締まってきました。馬着も着せられますし、顔を含めてどこでもブラシをかけさせてくれます。逆に甘えてきてくれるくらいです。放牧地でも時々走っていますね。来たばかりの頃は寝られなかったのが、それもできるようになりました」

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▲ヴェルサイユファームにきたばかりの頃のローズキングダム(提供:ヴェルサイユファーム)

 

 怪我と手術という苦難を乗り越え、日々愛情込めて世話をしてくれる岩崎さんとの間に、信頼関係も築かれてきたようだ。そんなローズキングダムの性格を尋ねると「わがままです(笑)」という答えが返ってきた。

「馬房から出たくない時は本当に出てこなかったり。放牧に出す時も、気分が乗らない時には行かないですしね、普通は放牧には行きたがるものなんですけどね。ただ先にメイショウドトウが放牧地に出ると、ローズキングダムも出ますね」

 そのメイショウドトウがタイキシャトルとともに、ヴェルサイユファームの住人となったのは、昨年11月29日のことだった。

(つづく)


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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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