【岩永千明騎手】3年3か月のブランクを乗り越え「怪我で辞めるのはイヤ、後悔の残らない騎手人生に」(無料公開)

2019年06月23日(日) 18:02

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▲3年3か月ぶりのレースを終えた岩永騎手 (提供:佐賀県競馬組合)

「3年3カ月」――この時間がプロのアスリートにとってどれほど長く、そして過酷な日々であったことでしょうか。それでも、岩永千明騎手は戻ってきました。

2004年に荒尾競馬からデビュー。全日本レディース招待競走総合優勝、レディースジョッキーズシリーズ総合優勝、そして2014年にはNARグランプリで優秀女性騎手賞を受賞。女性騎手として確かな実績を積み重ねていた矢先での、落馬事故でした。

自身の気持ちと向き合い続け、決意した“騎手復帰”。復帰戦を終えた岩永騎手に、今の心境を伺いました。

(取材・文=赤見千尋)

もっと努力して、早く勝利を挙げたい

 6月15日(土)、佐賀競馬第6レースにて岩永千明騎手が復帰しました。レースに騎乗するのは3年3か月ぶり。ファンの方々にとっても関係者にとっても、そして岩永騎手自身にとっても、長らく待ち望んでいた待望の瞬間でした。

「パドックでファンの方から『お帰り』と言っていただいて、ああ、やっと帰って来たんだなと実感しました。怪我の前からずっと応援してくれていた方々が競馬場に来てくれて、とても嬉しかったです」

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▲復帰戦のパドックで笑顔を見せる岩永騎手 (提供:佐賀県競馬組合)

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▲いよいよ迎えるゲートイン (提供:佐賀県競馬組合)

 復帰戦は中団の内を追走、勝負所では脚色がいっぱいになり、12頭中11着でゴールイン。2戦目の第8レースは好スタートを決め、先行して5着。第12レースは後方から徐々に脚を伸ばして7着。上位入線ではなかったけれど、無事に復帰初日を終えました。

「レース前はとにかく緊張しました。休んでいた時間が長かったので、不安な気持ちが大きかったです。荒尾時代にも大きな怪我をして、復帰戦がどれだけ大変かわかっているからこそ怖い部分もあって。実際にレースに乗って、すごくホッとしました。

 でも騎乗フォームが前とは違うし、筋力が落ちていて、乗っているだけで必死の状態で。もっと努力して、早く勝利を挙げたいです」

 復帰しただけでもすごいと感じるけれど、結果を求められるプロとして、自身の騎乗を冷静に振り返っていました。

 岩永騎手が落馬負傷したのは2016年3月6日。詳細は発表されていないけれどとても大変な怪我で、退院後も長らくリハビリ生活が続きました。

 その後、最初にファンの方の前に姿を見せたのが2017年1月9日。レディスヴィクトリーラウンド(以下LVR)で全国の女性騎手が佐賀競馬場に集まり、その騎手紹介式にサプライズで登場したのです。

「心配してくれているファンの方に、ここまで回復しましたというところを見せたかったので。ただ、次のLVR(2018年2月20日)は新たに報告出来るようなことがなかったので、紹介式には出ませんでした」

 こういう行動の一つ一つに、岩永騎手の誠実さが伺えます。

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▲2017年1月9日、LVRの騎手紹介式にサプライズで登場 (撮影:大恵陽子)

復帰を後押しした、ライバルであり仲間でもある女性騎手たち

 しかし、怪我から2年が経過しても、具体的に復帰の話は聞こえて来ませんでした。命に関わる大怪我だった上に、日常生活に戻れるかどうかもわからない状況だったと伺って、“復帰”という質問を岩永騎手にするのは酷だと感じました。

「休んでいる間、もちろん引退することも考えました。家族も心配していたし、これだけ大きな怪我をして復帰するというのは、自分自身迷いも多かったです。

 でも、やっぱり馬が好きなんですよね。お世話になっていた厩舎で人手が足りないと聞いて、リハビリがてらに寝藁作業を手伝っていたら、やっぱり乗りたくなってしまいました」

 調教で乗るようになったのは、昨年の後半だったといいます。そして、馬に乗っているうちに、復帰への気持ちが強くなっていきました。

「特に大きかったのはLVR(2018年10月7日)ですね。それまでにも女性騎手のみんなに会っていたけれど、その時は復帰したい気持ちが強くなって来ていたので、すごく背中を押してもらいました。

 みんなが頑張っている姿を見て刺激を受けたし、優しい言葉もかけてもらって…。仕事上はライバルなんですけど、同じ女性騎手同士、仲間なんだなって」

 岩永騎手の動向を佐賀の関係者たちも見守り続けました。復帰は本人の気持ち次第でいつでも戻って来て欲しいと、待っていてくれていた関係者も多かったと言います。

 レースに復帰するに当たって、背中に入っている金具を抜く手術が行われました。日常生活や調教をする上では支障がないそうですが、レースとなると感覚が違うということで、除去手術をして万全の態勢で復帰したのです。

「家族に心配をかけて申し訳ないという気持ちもあるし、普通なら辞めた方がいいところなんですけどね。でもどうしても、怪我で辞めるというのがイヤで。後悔の残らない騎手人生にしたいんです。

 この先はまだどうなるかわからないけれど、自分が納得して騎手を辞めたいです。なんで辛い方の道を選択するんだろうって思うこともあるんですけど。わたし、変わり者なんですよね(笑)」

 前と変わらず、明るく答えてくれた岩永騎手。佐賀の実況アナウンサー、中島英峰氏が復帰戦で語った言葉をお借りして、「その心の強さに敬意を表します」。

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▲再び躍動する、強くて華麗な姿 (提供:佐賀県競馬組合)

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