地元2連勝で世界への切符をつかんだ吉村智洋騎手

2019年06月25日(火) 18:00

まさに破竹の勢い! そのきっかけは…

「調子がいい」「流れが来ている」というときは何をやってもうまくいくことがあるが、昨年からの吉村智洋騎手(兵庫)は、まさにそんな印象だ。

 6月20日、地元園田で行われた地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ・ファイナルステージで2連勝。見事に大逆転で優勝、8月24・25日に札幌競馬場で行われるワールドオールスタージョッキーズの地方代表騎手となった。まさに“あっぱれ”でしょう。

地元園田で行われた地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップを優勝した吉村智洋騎手(写真中央、撮影:稲葉訓也)

 6月2日、盛岡競馬場で行われたファーストステージで吉村騎手は13着、8着。出場14名中下位の2名が振り落とされるが、吉村騎手は11位というギリギリのところで地元園田のファイナルステージを迎えた。そして園田での第1戦を6番人気馬で勝利した直後、「(園田は)僕の庭なんで、庭では負けれんでしょ」と自信に満ちた表情で語っていた。その自信は第2戦で確信となり、1番人気にも支持され、2着に3馬身差をつける快勝。4戦での合計ポイントを65ポイントとし、2位の高知・永森大智騎手(52ポイント)に13ポイント差をつけての総合優勝となった。

 冒頭でも触れたとおり、昨年来の吉村騎手の勢いはスゴイ。昨年は森泰斗騎手(船橋)と年末まで地方全国リーディングを争い、森騎手292勝(JRAの成績も含む)に対して、吉村騎手はわずか4勝差の296勝で全国1位に。NARグランプリ2018の最優秀勝利回数騎手賞を受賞した。そしてこの年の296勝という数字は、2003年に小牧太騎手、2008年に木村健騎手がマークした288勝を上回り、兵庫所属騎手としての年間最多勝記録の更新ともなった。

 さらに今年、6月6日に園田で行われた兵庫ダービーを3番人気のバンローズキングスで制し、“ダービー”ジョッキーにもなった。また6月24日現在162勝を挙げ、森泰斗騎手に10勝差をつけて今年も地方全国リーディングのトップを走っている。

 思えばそうした活躍のきっかけは、2017年1月3日の新春賞にあったのではないか。

 吉村騎手は、その新春賞でエイシンニシパに騎乗。直線半ばで先頭に立つと、外から追い込んだタガノトリオンフと内外離れて並んだところがゴール。写真判定の結果、吉村騎手のエイシンニシパがハナ差、残っていた。

 エイシンニシパを管理するのは、吉村騎手の師匠であり、翌4日付での勇退が決まっていた橋本忠男調教師。最後の重賞挑戦を、見事に愛弟子が勝利に導いた。

2017年1月3日、エイシンニシパで新春賞を制した吉村智洋騎手。馬の右が橋本忠男調教師(写真:兵庫県競馬組合)

 その表彰式で吉村騎手は感極まり、「また(兵庫)ダービーのように負けるんじゃないかと……」と声を詰まらせていた。それは前年の兵庫ダービー。やはり吉村騎手が手綱をとっていたエイシンニシパは2番人気。直線で単独先頭に立ち、勝利を確信したかもしれない。しかし4コーナー8番手から6番人気のノブタイザン大外を豪快に追い込んだ。ゴールの瞬間、吉村騎手は腕を一杯に伸ばしたが、クビ差、差し切られていた。その悔しさが思い出されたのだろう。

 吉村騎手は、その2017年10月の兵庫若駒賞、2018年5月ののじぎく賞をトゥリパという馬で勝っている。その馬主は、引退した橋本忠男さんだった。

 2002年4月にデビューした吉村騎手は、2013年に初めて年間100勝超となる101勝をマーク。正月の新春賞をエイシンニシパで制した2017年には202まで勝利数を伸ばし、兵庫リーディング3位、全国リーディングでは9位まで躍進。そして2018年に一気に全国の頂点に立った。

 今年6月24日現在で吉村騎手は地方通算1778勝。通算1000勝を達成したのが2016年4月12日のことで、デビューから14年が経過していた。しかしその後の778勝は、わずか3年とちょっとで挙げている。

 重賞タイトルを見ても、2005年に東海クイーンカップ(名古屋)をハツネドオゴで勝ったのが重賞初制覇で、2016年までの約12年間では計7勝。しかし先の新春賞制覇に始まる2017年は3勝、2018年は4勝、そして今年はまだ約半分しか経過していないところですでに4勝を挙げている。その今年の活躍の原動力となっているのがエイシンニシパで、二度目の新春賞、はがくれ大賞典(佐賀)、兵庫大賞典と、今年だけで3つの重賞を制している。

 吉村騎手はこれまでJRAでは、京都・阪神で14回の騎乗で2着1回が最高の成績。中央のファンや関係者にはまだほとんど知られていない存在と言っていいかもしれない。ワールドオールスタージョッキーズが実施される札幌競馬場は初めての舞台となるが、とどまるところを知らない、まさに昇竜とでもいうべきその勢いに期待したい。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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