2019年07月29日(月) 18:04
日本農産工業(横浜市、以下農産工)が販売する飼料添加物「グリーンカル」から、競馬法上の禁止薬物であるテオブロミンが検出され、2日間で156頭の競走除外馬が出た問題は、発生から1カ月半近くが過ぎた。JRAは7月5日、中間報告的な「説明会」を開き、検出に至った経緯を特定するとともに、当面の再発防止対策を公表した。
予想通り、製品の出荷前検査から流通に至るプロセスの管理強化が骨子だった。だが、今回の件はどう見ても「平地に乱を起こす」愚かしい騒動だった。対策を語る前に、愚かしさの背後の「公正競馬の沼」を洗い直す作業が伴わなければ、全く無駄な騒ぎで終わりかねない。
なぜテオブロミンが混入したか。発表によると、農産工の孫請け業者の工場で、グリーンカルの原材料であるアルファルファミール(牧草粉砕品)を製造する際、近接する別な生産ラインでカカオ豆副産物を粉砕していて、粉じんが混入したという。
発生当初の当コラムでも、この製品は昨年12月から半年近く流通していて、投与された馬の中には間違いなく上位入着馬(検体検査を受ける)もいたはずだが、テオブロミンの陽性反応はゼロだった事情に触れ、「微量の混入と思われる」と書いた。粉じんが混入した程度なら、陽性反応が出るはずもない。
実際、製品の納入先の28厩舎(美浦6、栗東22)の365頭に対する検査でも陽性はなし。飼料添加物も競走馬の検体も、競走馬理化学研究所(宇都宮市)が検査する。競走馬に投与しても問題ない量の物質が、飼料添加物から検出されて大騒ぎになった。この部分の問題点は後述する。
発表で欠落していたのが、混入が起きた現場である工場の所在地である。3度の聞き取り調査でも農産工側が明かさなかったという。警察や消防なら、強制力を背景にした聴取で現場の位置を把握し、実況見分をした後、市町村名程度は発表するはずだ。
だが、JRAには強制調査権がない。贈収賄などに関しては、JRA職員はみなし公務員だが、こうした問題では「民」と同じ。事情聴取や立ち入り調査をする権限はない。7月5日に出た報道資料には「聞き取り調査」と記されているが、これは相手方の善意を前提にした話でしかない。
実は農産工は6月14日、各厩舎に製品回収を申し出た際に文書を配布しており、・・・
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野元賢一
1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。
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