最大の巡り合わせはディープインパクトの全G1を実況したこと

2019年08月03日(土) 12:00

無数の“出会い”や“経験”を述懐し、改めて思う

 原良馬さんの告別式が営まれた先月30日、今度はディープインパクトの“訃報”が飛び込んできました。「よりによってこんなタイミングで・・・」。なんとも“衝撃的”なニュースでした。

 おかげさまで、1983年から今に至るまで、スポーツアナウンサーを生業(なりわい)としてきた私。忘れられない“出会い”や“経験”がいくつもありました。

 例えば、1999年4月7日、西武・松坂大輔投手のプロ初登板試合を実況したこと。あれほど1人の選手のデビュー戦が注目を浴びたのは、1958年に巨人の新人・長嶋茂雄さんが国鉄の金田正一さんと対決して4三振を喫した試合以来だったんじゃないかと思います(その頃私はまだ生まれていませんでしたが・・・)。

 そのほか、都市対抗野球大会の決勝戦を今年で26年続けて28回も担当させてもらったことや、バドミントン日本代表の成長の跡を見続けてこられたことも、この仕事をやってきてよかったと思える巡り合わせです。

 そして競馬では、ディープインパクトが走ったG1(凱旋門賞を含む)を、すべて現場で実況したこと(もちろんすべてナマ放送ではなく収録でしたが)。なんと言ってもこれが一番でしょうね。

“中野コール”が沸き起こった1990年の日本ダービーや、オグリキャップが奇跡の復活を果たして引退の花道を飾った同年の有馬記念、ライスシャワーがミホノブルボンの3冠制覇を阻んだ1992年の菊花賞、牝馬ウオッカが牡馬を蹴散らした2007年の日本ダービーなども印象深いレースです。

 とはいえ、あれほどの実績を残したディープインパクトの全G1を実況できたのですから、今のところこれ以上の巡り合わせはありません。

 あちこちのトークショーでもお話ししたことですが、今でも覚えているのは(原さんの口グセを拝借しました)、日本ダービーの本馬場入場。ディープインパクトがダートコースを横切って芝コースに出ようとした瞬間、首を大きく上下させて、鞍上の武豊騎手を振り落としそうになったのです。

 もしそこで放馬して、競走除外になっていたら・・・。今になって想像するだけでもゾッとする、取り返しのつかない“大惨事”になっていたでしょうね。

 その危機を見事に回避してダービー制覇を果たし、現役を引退するまでの輝かしい実績をともに築き上げたディープインパクトと武豊騎手。素晴らしいレースを見せてもらってありがとうございました。

 同馬の後、その仔のキズナでもダービーを制した武騎手には、次はキズナの仔でのダービー制覇という偉業が期待されます。ご本人もおっしゃっているとおり、これぞまさしく競馬ならではの楽しみ。ディープインパクトがこの世を去った寂しさや悲しみも、そういう夢を見れば紛らすことができますよね!

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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