9年ぶり5頭目の北海道三冠

2019年08月06日(火) 18:00

さまざまな記録が達成された三冠でもある

 ホッカイドウ競馬で9年ぶり史上5頭目の三冠馬が誕生した。8月1日の王冠賞を制したリンゾウチャネルだ。

 リンゾウチャネルのここまでの二冠は、北斗盃、北海優駿とも2着に3馬身差をつける完勝。しかもホッカイドウ競馬の冬季休催が明けてからの3歳シーズンは、その二冠を含め4戦全勝という成績。迎えた三冠目の王冠賞にはこれといった新興勢力もなく、単勝は1.1倍。三冠はほぼ確実かという期待を背負っての出走となった。しかしゴール前、シベリアンプラウドにクビ差まで詰め寄られ、ぎりぎりのところでの三冠達成だった。これについてはまた後で触れる。

王冠賞を制して北海道三冠を達成したリンゾウチャネル

 現在は門別競馬場での単独開催となっているホッカイドウ競馬だが、かつては札幌、旭川、岩見沢、帯広などの競馬場で開催され、3歳三冠もさまざまに競馬場や距離を変えて行われてきた。歴代三冠馬の足跡は以下のとおり(各レース名の右は、日付・競馬場・距離)。

●1981年:トヨクラダイオー(牡)
北斗盃 6.21旭川1600
王冠賞 8.16帯広1800
北海優駿 10.10札幌1800

●1999年:モミジイレブン(牡)
北斗盃 5.11門別1200
王冠賞 9.2旭川1600
北海優駿 10.11札幌2400

●2001年:ミヤマエンデバー(牡)
北斗盃 5.24札幌1000
王冠賞 8.15旭川1600
北海優駿 10.18門別2000

●2010年:クラキンコ(牝)
北斗盃 4.29門別1200
北海優駿 6.1門別2000
王冠賞 8.19門別2600

●2019年:リンゾウチャネル(牡)
北斗盃 5.30門別1600
北海優駿 6.19門別2000
王冠賞 8.1門別1800

 北斗盃は春から初夏にかけて、王冠賞が夏というのはずっと変わっていないが、北海優駿は2006年まで秋の実施で三冠目だったものが、2007年からは時期が早まり二冠目となっている。

 門別単独開催になった最初の年に三冠馬となったのが牝馬のクラキンコ。この年は1200mから2600mという、まるで異なる適性の距離をこなさなければ三冠を制することはできなかった。

 現在の距離体系になったのは2015年。その年から2017年まで3年連続で二冠を制する馬がいたが、三冠には至らなかった。

 その中でも残念だったのが2015年のオヤコダカだろう。3歳初戦となった北斗盃を7馬身差で圧勝。続く古馬A級戦も6馬身差で圧勝し、二冠目の北海優駿は単勝1.1倍の断然人気。しかしゲートが開いた瞬間、まさかの落馬。三冠目の王冠賞は3馬身差の完勝だった。

 2016年は、スティールキングが北斗盃、北海優駿とも1番人気に応えて勝利。三冠のかかった王冠賞も当然のように1番人気に支持されたものの2着。勝ったのは、北斗盃2着、北海優駿3着だったジャストフォファン。水の浮く不良馬場で逃げ切りを許したのだが、なんと同じ角川秀樹厩舎の馬に三冠を阻まれるという結果だった。

 2017年は、岩手所属として北海道の三冠を狙ったのがベンテンコゾウ。北斗盃、北海優駿は、ともに2着に2馬身差をつけての完勝。しかし三冠のかかった王冠賞で立ちはだかったのが、今や北海道では無敵の快進撃を続けるスーパーステション。北斗盃、北海優駿には間に合わず、三冠戦線は王冠賞が初出走だった。ベンテンコゾウは、北斗盃2着のストーンリバーにも先着され3着だった。

 距離が1600〜2000mになったとはいえ、三冠すべてを制するというのは、やはりそれほど簡単なことではない。冒頭でも触れたとおり、今回のリンゾウチャネルも、三冠目の王冠賞は勝負付けの済んだメンバーが相手でもギリギリのところでの勝利だった。

 ほかにこれといった逃げ馬もなく、リンゾウチャネルはレース序盤から後続を3、4馬身ほども離して単騎の逃げ。2番手は北海優駿3着だったシベリアンプラウド、3番手は同2着だったリンノレジェンド。向正面ではかなり縦長の隊列となり、能力の違いを感じさせた。

 そして3コーナー、シベリアンプラウドが一気に差を詰め、リンゾウチャネルに半馬身ほどに迫った。リンノレジェンド以下も続いたことから、リンゾウチャネルの三冠危うしかと場内はざわついた。ところが場内映像に先頭がアップで映し出されると、リンゾウチャネルの五十嵐騎手の手綱はまだ緩められたままだったのに対し、シベリアンプラウドの岩橋騎手は懸命にムチを入れていた。場内は安堵のため息と失笑に変わった。

 直線を向いて、リンゾウチャネルが再びシベリアンプラウド以下との差を広げると、場内からは拍手が起こった。ところが雰囲気はまた一変する。直線半ば過ぎ、いざ追い出されたリンゾウチャネルだったが、意外にも伸びない。逆に、3コーナーから追い通しだったシベリアンプラウドがじわじわと差を詰めてきた。再び三冠危うし、と思われたが、リンゾウチャネルがなんとかクビ差でしのいだところがゴールとなった。

 表彰式の勝利騎手インタビュー。最初は普通に受け答えをしていた五十嵐騎手だったが、後半、「正直ここ二冠の疲れもあったみたいで、よくこの状態でよく三冠をとってくれたと思ってほんとにうれしく思います」と言ったところで声を詰まらせた。

 表彰式後、堂山調教師に話をうかがった。「(王冠賞は)使えないんじゃないかというほどの状態で、ようやく使えるまでにもってきたもんだから、彼(五十嵐騎手)は感極まって……。勝って嬉しいんじゃなくて、使えたってことがうれしかったんだろうな」と。同じようなメンバーが相手でも、重賞をいくつも続けて勝つというのは、やはり容易なことではない。

五十嵐冬樹騎手(左から2人目)は初の三冠、堂山芳則調教師には3頭目の三冠

 これまで何度か北海道リーディングに輝いている五十嵐冬樹騎手は、今年デビュー27年目。北斗盃は3勝目、北海優駿は3勝目、王冠賞は4勝目だが、三冠制覇は初。そして管理する堂山芳則調教師には、ミヤマエンデバー、クラキンコに続いて、なんと3頭目の三冠制覇。これは“大あっぱれ”でしょう。また父モンテロッソは今年の2歳馬が3世代目の産駒となるが、ここまでのところ中央・地方を通じてリンゾウチャネルが唯一の重賞勝ち馬となっている。さまざまに記録が達成された三冠でもあった。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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