【京成杯AH】ライバルを翻弄した典さんのトリック 大胆さと繊細さを兼ね備えた大逃げ

2019年09月12日(木) 18:01

哲三の眼

▲あっと言わせた横山騎手の独走劇を解説(c)netkeiba.com、撮影日は7月6日

今回は、京成杯AHでさく裂した横山騎手のあっと言わせる大逃げに迫ります。トロワゼトワルに騎乗し、日本レコードを記録しての逃走劇は、開幕週というコンディションやレース全体の流れを読んでうまく周りを欺いた戦術、そしてそれを活かす洗練されたテクニックが噛み合ってのものでした。哲三氏も「最後までワクワクさせられた」と述べる魅力的な一戦を解説していきます。(構成:赤見千尋)

「ペースを落としている」と周りに思わせておいて…

 今週振り返るのは京成杯オータムハンデキャップ。4番人気だったトロワゼトワルがレコードタイムで逃げ切りました。どの馬が逃げるのか、というメンバー構成のなか、(横山)典さんらしい素晴らしいレースをしてくれましたね。

■9月8日 中山11R(10番:トロワゼトワル)

 僕は今回この馬を本命にしていて、どんなレースをするんだろうと楽しみにしていたのですが、逃げた時には「そうきたか!」と思ったし、最後は粘るのか止まるのかという醍醐味を味わえて、本当にワクワクさせてもらいました。ある意味想定と違う騎乗、あっと驚く戦術を取って、しかもそれで結果を出してしまう。改めて典さんのすごさを感じたレースでした。

 今回のラップを見てもらうと、2ハロン目から10秒台を連発しているんです。でもタイムだけ見て「速い」というのは早計な話で。先ほども言いましたが、今回は明確な逃げ馬が不在で、どの馬が行くのかというのも一つのポイントでした。その中で逃げたのが典さんだった。

 道中ペースを落とすだろうというところで、一瞬は落とすように見せているけれど、実は落としていないんです。でも後ろは「典さんがペースを落としにかかっている」と判断してブレーキングしているので、自然にリードが広がった。見た目には大逃げという形に見えたと思いますが、典さんの技術で後ろの馬たちが惑わされ、ブレーキングを掛けたから広がったリードであって、典さんの馬がペースを上げたわけではないんです。

哲三の眼

▲直線でもリードを保ったまま、3馬身半差で圧勝(撮影:下野雄規)

 タップダンスシチーのJCでの駆け引きで、安藤さんを先に引っ張らせる形にして、後続とのリードを広げたという話を以前しましたが、今回形は違うけれど方向性は同じです。競馬というのは基本的に、前の馬がブレーキをかけたら、順々にブレーキをかけていく。だから前の馬がブレーキをかけているように感じれば、後続は自然とブレーキングしていくことになります。

 もちろんレースの流れの中で途中で上がって行く馬もいますが、基本的にはそういう風に隊列を組んで進んでいくわけです。

 あの高速馬場で、後続の方が先に引っ張って減速しているわけで、そこから追いつくというのは簡単なことではありません。上がりは34.9で勝ち切っているのですが、僕の中ではあまりに速い上がりを使うより、34秒後半から35秒台で勝たせてあげるのが、馬に優しい乗り方だと思っていて、まさに今回の典さんの騎乗は僕の理想に近いものでした。

レコードVの裏に、スピードを活かす様々な技術

 netkeibaで公開されている小島友実さんとの対談で、今の馬場でのスピード競馬について話していますが、先週の中山もまさにコンディションのいい馬場で、時計が出やすかった。そういう馬場でどう乗るかということを考えるのは、とても大事なことだと思います。

 典さんの乗り方を解説するのはなかなか難しいですし、僕の考えとは違うかもしれませんが、僕がいつも言っているセッティングというところが、今回もすごく合っているなと感じました。「思い切った逃げ」ではなくて、「計算されつくした逃げ」だったなと。馬の1歩1歩において、無駄になるものを極力削いで、スピードへ持って行っている。あのスピードで行って、騎手が少しでも引っ張りすぎたり、行きすぎたり、馬に対してブレに繋がることを少しでもしたら、最後は止まってしまったと思いますから。

哲三の眼

▲トロワゼトワルは重賞初制覇、開幕週での日本レコードV(撮影:下野雄規)

 今回リードを広げて競馬をしているから、引きの映像しかなくてわかりにくいかもしれないですけど、典さんはまず手綱がプラプラにならないんですよ。短く持ってもある程度長く持ってもプラプラにならないし、自分の体を上手く使って、手綱と一緒にハミまで持って行く。これは川田(将雅)君にも言えることですね。

 プラプラな手綱が悪いわけではないし、現に(武)豊さんはプラプラにしてしならせてハミを抜くというところがあるんですけど、それが絶妙に上手い。ただ単にプラプラにしているわけではないので、めちゃくちゃ研究しないと他の人には真似出来ない技なんです。

 典さんの話に戻ると、自分と馬との間合い、セッティングが完璧に乗れたのではないかと。馬場状態も含めて、典さんのイメージに合ったと思うし、一切無駄がない。大胆な逃げになりましたが、その中で繊細さがとても光ったレースでした。

今週の注目コンビ

哲三の眼

▲オークス4着からの秋始動戦を迎えるウィクトーリア(撮影:下野雄規)

 今週の注目騎手はローズステークス、ウィクトーリアに騎乗する戸崎(圭太)君です。脚の使いどころが難しそうなウィクトーリアにどのようなレースの進め方をするのか注目したいと思います。

(文中敬称略)

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佐藤哲三

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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