2019年09月28日(土) 12:00
想像力とは、知識と体験と常識を積み重ね、冷めきった頭で処理するところに発生すると、作家の星新一は書いている。また、知恵は知識にまさると、フランスの哲学者パスカルは言葉をのこしていた。あまりにも荒々しい天候が続いたあとなので、月愛でる候、少しばかり浮世ばなれした気分で競馬の秋に想いを馳せてみたい。
目の前を疾走する馬を我が身にひきあててみれば、馬に対する思いやりの心が見えてくるのではないか。その広い大きな心こそ、競馬の粋人たる資格と言えるのだと思う。粋人となれば、様々な空想も自在だ。それも虫のいい空想を。何よりも面白いのが、競馬なら大波乱の夢。めちゃめちゃであれ、起きないという保証はない。パズルを解くように過去の例から、そういうシーンを思い出してみよう。
秋のGIの幕明けスプリンターズSが、スプリント競走体系が整備されて初秋の中山の最終日になった2000年、とんでもない大波乱を生んでいた。16頭立ての16番人気のダイタクヤマトが、逃げたユーワファルコンをマーク、直線抜け出して勝ち、7頭のGI馬を抑えて歴史に残る大金星を上げたのだ。この時の単勝25,750円は、スプリンターズSの記録として残っている。
騎乗したのが江田照騎手、穴男の面目躍如だった。10番人気のユーワファルコンが逃げて、これを行かせた最低人気馬がこれを追うという流れでは、無理をして追いかける馬は出にくい。それまでのダイタクヤマトは4角での順位以上の成績は残していなかった。
ところが、この日は早目に進出、仮柵が外れた内ラチ沿いの馬場のいいところに飛び込んだから勢いは止まらなかったのだ。2着アグネスワールドの武豊騎手も、3着ブラックホークの横山典騎手も口を揃えて、「今日は行きっぷりが良くなかった」と言っていた。馬場状態はヤヤ重、走破タイムが1分8秒6、スプリンターズSで穴馬が飛び込む条件は、この2点だということを証明していたと言ってもいい。
重賞6度目の挑戦でつかんだ勝利がGIレース、しかも7歳馬(旧年令)の快挙、ダイタクヤマトの最後の頑張りは、首の高い走法でムラ馬と呼ばれながらもマイルCSだけは一変して連覇を果たした父ダイタクへリオスの血が目覚めたのだった。
「坂を上がったところで脚が完全になくなっていたのに、そのままゴールまで残っちゃった」と語った江田照騎手。「善戦できるとは思ったが、まさか勝つまでは考えていなかった」と石坂調教師。誰しもが想定外だったからこその結末、そこに思いをめぐらせてみるゆとりがあれば面白いのだが。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。
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