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引退馬の預託施設情報サイトがオープン(3)生産牧場と引退馬を繋ぐ新たな可能性「静内杉下牧場」

2019年10月22日(火) 18:00

第二のストーリー

生産を行いながら養老馬の受け入れも行っている静内杉下牧場(静内坂本牧場Facebookより)


引退後の馬生も大切に思うファンの存在から…


 通常競走馬の生産牧場は、生産した馬を馬主に売ったり、馬主から繁殖牝馬を預かることで生計を立ており、生産馬が競走生活を終えた後まで関わることはほとんどない(競走馬引退後に繁殖牝馬として戻ってくるケースはある)。だが浦河町の渡辺牧場(今は養老のみ)や、新ひだか町の荒木牧場、最近では日高町のヴェルサイユリゾートファーム(生産はヴェルサイユファーム)など、生産を行いながら養老馬の受け入れを行う牧場も存在している。その中の1つが、静内杉下牧場だ。

 静内杉下牧場は新ひだか町の桜の名所、二十間道路からほど近くに位置している。今年1月1日付けで代が替わり、静内坂本牧場から静内杉下牧場と名称が変更となった。

 長年競走馬の生産を手掛けてきた牧場が、なぜ養老馬も受け入れるようになったのだろうか。そのきっかけを作ったのが静内坂本牧場生産のハリマブライト(牝)だった。引退馬協会のフォスターホースになったのが、最初のきっかけだった。

 ハリマブライトは、父オサイチジョージ、母はウエストモアでその父がキタノカチドキという血統だ。競走馬としてデビューしたのは、1998年1月の笠松競馬場。馬体重410キロ前後の小柄な牝馬は、通算成績15戦1勝で1999年の4月4日の4着を最後に引退している。そのハリマブライトが、引退馬協会の前身「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」のフォスターホースとして千葉県にある乗馬クラブイグレットに繋養され始めて以来、彼女の故郷ということでハリマブライトに出資している会員が静内坂本牧場に訪れるようになった。会員と交流を深めるうちに、競馬だけではなく、競走馬を終えた後の馬生も大切に思うファンの存在を知り、牧場として引退馬の馬生について考えるようになっていったという。

 その後、ハリマブライトから繋がった縁で、引退馬協会のサポートホースでもあったマイネルスティング(マイネルスティングの会所有・2013年11月3日永眠)を預かることになった。

「スティングに会いに会員さんがいらっしゃるようになって、そのうち自分の馬も預かってほしいという話をいただくようになりました」(静内杉下牧場・坂本紀美子さん)

 2002年の中山金杯優勝の実績のあるビッグゴールドが、ビッグゴールドサポーターズクラブ所有の新たな預託馬として牧場にやって来たのが2011年6月だった。

「そのうち自分のところで生産した馬も帰ってきて…。これは預託馬ではなく自分の馬ですから牧場と共倒れにならないようにサカモトホースファミリーを立ち上げました」

第二のストーリー

2011年にはビッグゴールドがやってきた(ユーザー提供:ニンジンサンタさん)


 サカモトホースファミリーは、繁殖等の仕事を終えた静内坂本牧場の馬たちの天寿を全うさせることに賛同して応援する人々を会費1口2000円(月額)で募って運営されている会で、平成28(2016)年1月1日に設立されている。

 競走馬と同じで、繁殖牝馬も一般的には経済動物とされている。不受胎が続いたり、高齢で子供が産めなくなると牧場から出されて、大部分が処分の道を辿ると言われる。

「ウチはなかなかそれができなくてずっと苦しんでいた部分があったものですから…。それに訪れる会員さんも皆、馬たちを可愛がってくださっていますしね」

 人々の生活を支えてきてくれた馬たちを処分する。牧場経営のため、生活のために割り切らなければならないとわかっていても、命ある生き物だけにそれがなかなかできない人もいて当然だと思う。けれども馬という大動物を養っていくには、やはりお金がかかる。

「第二のお仕事として子馬たちの子守をしてもらったりして、それでサカモトホースファミリーのサポートホースとして迎え入れて、馬たちの生活を維持していくという形を取るようになりました。ここ数年は生産を1、2頭に減らして、引退馬が中心になっています」

第二のストーリー

静内杉下牧場の2018年うまれの3人娘(静内坂本牧場Facebookより)


 牧場の経営自体も、ここのところだいぶ軌道に乗ってきたという。また少ないとはいえ、生産馬たちは競走馬として毎年デビューしている。

「各競馬場に、応援幕を持った会員さんたちが皆応援に行ってくれているんです」

 紀美子さんの声は弾んでいた。

 普通ならその牧場の中だけで完結する事象でも、引退馬を受け入れ、サカモトホースファミリーを立ち上げたことで、会員さんをはじめ静内杉下牧場に関わる人々皆で喜びや悲しみを分かち合うことができる。牧場をオープンな空間にするのはなかなか難しいかもしれないが、ひとたびその垣根を払うと、馬を中心にまた違った世界が見えてくるのかもしれない。紀美子さんの話を聞きながら、生産牧場と引退馬を繋ぐ新たな可能性が見えたような気がして、明るい気持ちになっていた。

(つづく)



認定NPO法人引退馬協会
https://rha.or.jp/index.html

引退馬預託施設INFO
https://rha.or.jp/yotaku_info/index.html
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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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