【菊花賞】伝統GIで魅せた“世界一”の立ち回り「淀の下りは豊さんがイチバン!」

2019年10月24日(木) 18:01

哲三の眼

▲武豊騎手騎乗のワールドプレミアV、記録ずくめの菊花賞に! (c)netkeiba.com

武豊騎手がワールドプレミアとともに菊花賞を制覇!同レース最多5度目の優勝と最年少&最年長勝利に加え、昭和・平成・令和の3元号GI制覇など、まさに記録ずくめの一勝となりました。哲三氏は「京都の下りは豊さんが世界一」と評しつつ、武豊騎手が随所に見せた立ち回りを絶賛。簡単そうで難しい“淀3000mの攻略法”とは?(構成:赤見千尋)

世界的コーナーワークで勝負あり「もう、完璧すぎる」

 菊花賞は3番人気ワールドプレミアが、先団内から直線抜け出して初GI制覇。僕は(武)豊さんの京都の下りは“世界一”だと思っていて、クリストフ(ルメール騎手)をはじめ世界のトップジョッキーたちもとても上手いけれど、やっぱり豊さんが一番だなと改めて感じました。

 京都の外回りコースは向正面から3コーナーに掛けてなだらかに約4m上って、3コーナーから4コーナーに掛けて一気に下る特殊な形態です。ここをどう走るかがとても重要で、今回も豊さんのコース取りのこだわりが見えました。

 まずはある程度内目の枠、3枠5番を引き当てたことはプラス材料だったと思います。この好枠をしっかり生かして、スタート後に内ラチ沿いのポジションを取りました。ここで注目していただきたいのが、内ラチ沿いというと、ただ単純に“ラチ沿いをぴったり走る”というイメージかもしれませんが、豊さんは違います。よく見ていただくと、ラチ沿いぴったりではなくて、1頭分入れるか入れないかくらい開けているんです。

 これは単に、“ラチから少し間隔を開けている”ということではなくて、とても効果的に内ラチ沿いのポジションを生かしている乗り方だと思います。具体的に説明すると、最初の1、2コーナーはラチ沿いをきっちり回っているんですけど、向正面から少し間隔を開けている。外の馬にプレッシャーを掛けつつ、コーナーに入ります。

 外から内に入って行った方が、下りでスペースを作りやすいし、他の馬たちも内へ固まってくる場面なので、外から密集した時のスペースも確保している。前の馬との距離だけではなくて、3コーナー手前からその後の横のスペースも作っているわけです。

 下りに入って行く辺りで他の馬も内を狙っている場面がありましたが、そこは進路を若干外に持って行って譲らない。もう、完璧すぎるなと。こういうことをシンプルにやってしまうところがさすがだなと思います。

哲三の眼

▲大舞台で見せた“豊マジック”に哲三氏「もう、完璧すぎる」 (c)netkeiba.com

 ワールドプレミアは今回初めてのGI挑戦でしたし、18頭という多頭数の競馬も初めてでした。でも豊さんのエスコートで、内を走っていても変に揉まれていないし、とても走りやすかったのではないかと。横のスペースに関しては先ほどお話しましたが、前との距離に関しても、僕がいつも走りやすい形として挙げる三角形を作れていた。前の馬との距離を少し置いて、左右に馬を置いた三角形の中で、絶妙なコーナリングをして左右のスペースも作っていたわけです。

 内ラチとの間合いが完璧で、場面場面、コーナーコーナーで使い分けているところがさすがです。ジョッキーが間合いを確保してくれているのですごく走りやすいと思うし、馬が経験していないこともジョッキーがカバーしてしまうという。

 いろいろな思考を持っている中で、その場面に合わせたベストの選択肢を選ぶところがすごいし、それを組み合わせて3000m走ると、ジョッキーの力という部分が大きく出て来るのではないでしょうか。

 1番人気ヴェロックスは直線で伸びて来て3着でした。川田(将雅)君も上手く外枠から乗っていたけれど、ちょっと展開が可哀そうだったなと。4コーナーで外からマクッて来た馬たちがいて、これは僕の印象ですが、向こうはスピードが足りない分、早めにスピードに乗せるために動いて来ているので、ヴェロックスのタイミングとは違うというか。

 これが、これまでも競って来た馬たち相手ならばもっと併せに行きやすかったと思いますけど、でもこれが競馬なんですよね。強い馬たちが揃った中でも力を発揮してくれるけれど、その馬の持っている力だけではなく、展開、流れによって着順が変わってくる。そういう場面も見られたし、今年もすごく面白い菊花賞だったなと思いました。

今週の注目コンビ

哲三の眼

▲打倒アーモンドアイ、世界的名手を背に最強の座へ (撮影:下野雄規)

 今週の注目コンビは秋の天皇賞に出走するサートゥルナーリアと(クリストフ)スミヨン騎手です。サートゥルナーリアに対してスミヨン騎手がどのような動かし方をするのか非常に楽しみにしています。

(文中敬称略)

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佐藤哲三

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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